千華・2019-07-06
星に願いを
昔の詩
◇◆星に願いを◆◇
今日は七夕
天の川の対岸に隔てられてしまった
織姫と彦星が
年に一度だけ逢瀬を許された日
一年に一度でもいい
あなたに逢うことが叶うなら
夢でもいい
もう一度 あなたをこの手に
抱き締めることができるのなら
叶わぬこととは知りながら
今宵はせめて
星に願いをかけてみようか
もう一度
あなたに逢えますように
あなたに私の思いが届きますように
☆★☆
抜けるような青空に、
一羽の鳥が舞っている。
雲と競うほどに高く、悠然と。
翼を持たぬ者を、誘うようにー。
そうだ、鳥のように自由に。
いつか…私も飛べるだろうか。
けれど、鳥は本当に自由なのか。
たとえ翼があっても、
空を飛ぶことができても、
魂の帰れる場所がなければ不幸なだけだ。
私の還る場所は
どこにあるのだろう。
◇◆色づく街で◆◇
気がつくと
街はカラフルに彩られて
高くなった空をバックに
赤や黄のあざやかなタペストリーが
織り上げられている。
ああ、もうそんな季節―。
いつの間に。
ついこの間まで
暑い暑いと
汗をぬぐっていたのに。
季節はゆっくりと歩を進め
野も山も
街中の木々も
もうすぐやってくる
冬支度に忙しい。
私も前に進まなくちゃ。
頭では分かっているの。
でも―。
いつまでも
なくした恋の思い出にとらわれて
次の季節へ踏み出せないでいる
泣き虫で寂しがりやの私。
もうすぐ新しい季節がやってくるよ。
まっさらな朝がやってくるよ。
色づく街の木々は
臆病な私に
優しく声をかけてくれる。
ぴんと冷たい秋の風が
そっと私の背中を押していく。
ああ、そうだ。
明日はきっといいことあるね。
だって
未来はまっさらだもの。
この空のように。
この街のように。
🍁
◇◆ 優しい午後 ◆◇
-諸葛亮、徐庶、桂華-
あの頃
ぼくたちの世界は輝いていたね。
きみがいて ぼくがいて
そして彼女がいて。
二人とひとり。
それぞれが それぞれを支えあい
手をつなぎ
三角形は 世界で一番美しい形だった。
きみと彼女が
時折かわす意味ありげな微笑に
ぼくは ほんの少しだけ
居心地の悪さを感じたりしたけれど
それでも
三人で同じ空を見上げていられる
それだけで幸せだった。
突然―。
きみは そんな世界に終止符を打った。
なぜ?
ぼくを 彼女を 捨てていくのか?
残される者たちの やり場のない思いを
どうしろと言うんだ きみは。
壊れた三角形は 元には戻らない。
つないだ手は ばらばらになり
支えあっていた心は 無残に砕け散る。
たとえそれが
やむを得ない選択だったとしても
やっぱりぼくは きみを許せないよ。
彼女を、桂華を幸せにするのは
きみにしかできないだろう?
ぼくじゃダメなんだ!
空はこんなに青いのに
太陽は あの日と同じように
明るく大地を照らしているのに
ぼくらはもう
美しい三角形じゃない。
ねえ、泣かないで。
お願いだよ…。
これからは
ぼくがあなたを支えるから。
きっと きっと 幸せにするから。
優しい午後の風が
ぼくと彼女の背中をなぜていく。
元直のいない午後―。
***
すみません…突然、訳の分からない詩で。
ここに出てくる三人は、実は拙宅のオリジナル小説設定の諸葛亮(孔明)と桂華(孔明の妻)、徐庶(元直)です。
孔明と徐庶は同門の親友、そして桂華はもともと徐庶の恋人だった、という設定です。
男二人に女ひとり。若い頃にはありがちな、ちょっとあやういバランスの上に成り立つ友情。
一歩間違えば、泥沼の三角関係!みたいな(笑)。
結局、徐庶が曹操の元に奔ったために、桂華は捨てられた、という格好になってしまいます。そんな彼女に求婚したのが、孔明だったというわけ。
わざと言葉遣いなんかも現代風にしてみたのですが、ちょっと青っぽい孔明さんも、なかなかによいかも。…なんて、手前味噌ですね。
すでに、三国志の世界じゃないけど(汗)。
◇◆黄金色(きんいろ)の妖精◆◇
仕事が終わって外に出ると
どこからか
金木犀のいい香り
……あ、咲き出したんだ!
いつも突然だね
まだまだつぼみだと思っていたのに
気がつくと 街は
甘やかな香りであふれている
季節の魔法は
黄金色の風のひと刷毛で
街中を秋の色に染め上げる
今年も
この街へようこそ
小さな小さな秋の妖精たち
🔸
◇◆鎮 魂(レクイエム)◆◇
私が死んだら
この胸の思いは どこへ行くのだろう
丞相から託された大いなる志
追いかけ続けた遠い夢
今もなお 沸々とたぎる熱い願い
行き場をなくした情熱は
大地に流れた私の血を伝って
どこまでも深く染み渡り
砕け散った夢の欠片は
いつまでも消えることなく
中空に漂い続けるのだろうか
すべてを賭けた 起死回生の奇策は
誰に明かされることもなく
ただ 我が胸中に在るのみ
この身が塵と消え果てるとき
最後まで信じ抜いた 回天の奇跡も
また 永遠の封印の中に閉ざされるのだ
ああ、私は死ぬのか―
遠のいてゆく意識の底に
あざやかに浮かんだのは
今は亡き尊きひとの 懐かしい笑顔
そして
あの日あなたとともに見た 五丈原の空
もはや 何も感じない
痛みも
悲嘆も
後悔さえも―
香蓮
きみに会えてよかった
愛しき子らよ
そなたたちの父であることを誇りに思う
丞相
あなたの期待に応えること能わず
このような所で無様に果てる
不甲斐ない私を
どうかお許しください
ああ 願わくば
我が思い天に至りて
夜空に輝く星となれ
せめてこの身は
天地を照らすささやかな灯火となり
胸にあふれる思いを
永久(とわ)に注ぎ続けよう
この悠久の大地に
愛しき者たちの上に
◆◇◆
蜀漢の最後を飾る武将 姜維伯約。
旧暦1月18日は、彼の命日です。
起死回生を賭けた最後の秘策が破れ、押し寄せる敵兵の刃に斃れた時、姜維は何を思ったのでしょう。薄れゆく意識の中に、何を見たのでしょうか…。
生まれ育った天水の大地。懐かしい母のこと。愛する家族の面影。
あるいは、自分に新しい生命を与え、進むべき道を指し示してくれた丞相 諸葛孔明への思い。
その孔明の遺志を継ぎ、ひたすらに駆けてきた己の生涯。
追い続けた、ただひとつの夢。
そして今、己が魂とともに砕け散った、希望―。
すべての思いは、天に還ったのでしょう。
あの日、孔明とともに見た五丈原の空に。
🔹
◇◆総司の剣◆◇
総司の剣は鋭く まっすぐ
我が身もろとも
敵のふところへ飛び込んでゆく
何の躊躇も 迷いもなく
なぜ そんなにも軽々と
生と死の境を越えてしまえるのか
お前が 向こう岸へ跳び移ったまま
二度と戻ってこないんじゃないかと
俺はいつも不安だった
総身に血をあびながら――
自らの魂もまた 血を流しながら――
どうして お前は
いつも笑っていられる?
出会った頃の
無垢な少年の心のまま
この痛々しい現実の中に
立っていられるんだ?
お前が傷つき 血を流し
声にならない慟哭をあげるのを聞きながら
俺にはなにもできないのか
もういい
もう笑わなくていい
せめて……
せめて 俺の前では 涙を見せてくれ
本当のお前をさらしてくれ
その細い腕には 抱えきれないほどの
悲しみも 怒りも 不安も 痛みも
すべて俺が受け止めてやる
それでもやっぱり お前は
透き通るように笑っている
総司の剣は 今日も まっすぐに敵を貫く
俺のために――?
俺のために お前は――?
この修羅は俺のため
そしてまた その笑顔も俺のため
総司…… 死ぬな!
どんなことがあっても
俺がお前を守ってやる
絶対に守ってやる
だから 総司
俺より先に死ぬんじゃねえぞ!
ありがとう 土方さん
私はね……
土方さんのためなら
いつでも笑っていられますよ
命尽きる その瞬間まで――
◇◆◇
沖田総司というと、今でも印象に残っているのは、テレビで見た島田順司さん。
そして、有川博さん。
お二人とも、決して美青年というタイプの俳優さんではなかったが、清潔で、見るからに「いいひと」という感じの総司だった。
そして、とにかく笑顔がいいのだ。
「透きとおるような」と形容される総司の笑顔は、おそらく血みどろの修羅の世界に身をおきながら、それでも決してその穢れに染まらない、かれの純粋な魂を映したものだと思う。
けれど、生身の総司は、やはりそれなりに迷いもし、苦しみもしたはずだ。
ただそれを、決して人には見せなかった……。
土方は、そんな総司が歯がゆくてならない。何もかも自分ひとりで抱え込んで、超然と立っているかれの孤独を、土方なら分かっていたはずだから。
もっと、自分を出せよ。弱音を吐けよ。
俺の中で甘えろよ――。
お前の全部を、俺が受け止めてやるから。
私の中では、二人はこんな理想の関係なのである。
💠
◇◆風 花◆◇
――あ、見て 見て!
歳三さん
雪だよ、ホラ!
今年初めて見る雪に
お前は弾んだ声をあげて
子犬のようにはしゃぐ
少し尖った白い頤(おとがい)が
灰色の空をふり仰ぐ
その肩に 髪に
やさしくまとわり落ちる
白い結晶たち
雪は 音もなく舞い降りて
俺とお前を
静寂の中に包み込む
お前は 雪を追いかけ
追いかけ
時折ふり返っては
うれしそうに笑う
俺は――
雪なんて嫌いだ
この世に存在した証をとどめもせず
跡形もなく
とけて消えてしまうから
雪のはかなさは お前に似ている
今にも神隠しに遭って
目の前から掻き消えてしまいそうな
細い背中
生きている証を
俺の腕の中だけに残して
お前が消えてしまわないように
黙って逝ってしまわないように
片時も目をそらさず
心を離さず
いつも お前だけを見つめていよう
お前が生きた日々は
今も これからも
俺の胸の中にある
忘れようのない ぬくもりとともに
◆◇◆
私が住んでいる地域では、あまり雪は降りません。
たまに降っても、積もるほどではなく、「風花」の名のとおり、舞い散るように地面に落ちては消えてゆきます。
そのはかなさに、歳三は、総司の命を重ね合わせているんですね。
そして、やりきれない想いを持てあましてしまう……といういつものパターン。
それにしても――。
「風花」とはよくいったもので、乱舞する雪はどこか桜吹雪に似ています。
はかないけれど、ひたむきで、まっすぐで、いさぎよくさえある。
土方歳三と沖田総司のふたりに思いをはせるとき、私はいつもこの風景を思い描いてしまいます。
動乱の時代をひとすじに貫いた男たちの熱い生きざまに、乾杯。
◇◆もういいかい?◆◇
もういいかい?
まあだだよ……。
もういいかい?
歳三さん
そんなにあわてなくてもいいよ
もう少し ゆっくりしておいでよ
私はいつもここにいますよ
ずっと待っててあげるから――
いつだって そう言って楽しげに笑う
きっとあの頃から
お前は 俺たちとは違う地平に立っていた
まして今のお前には
時間なんて関係ないんだな
病のつらさや [殺]し合いの空しさや
俺たちへの気遣いや 心の痛みや……
そんな俗世の
いっさいのしがらみから解き放たれて
お前を縛るものは 何もない
それならいっそ
もう少し 待っていてくれるか
俺が 俺自身の生きざまってやつに
けりをつけられるまで
いつの間にか
鬼がひとりになってしまいましたね
歳三さん 背中が寂しそう……
俺が追いかけてた奴らは
みんなどこへ行っちまったんだろうな
鬼がひとりきりじゃ 鬼ごっこはできねえ
お前も待ってるだけじゃ つまんねえだろ
もう少し……もう少しだ
箱館は 明日にも
官軍の手に落ちるだろう
そうすれば 俺が戦う意味もなくなっちまう
血に染まった俺の人生に
ようやく幕が引けるんだ
すぐに行くから
お前の側へ
だから、総司――
もういいかい?
もういいよ……。
もう、いいんですよ
土方さん
今は ゆっくり休んでください
それからまた
鬼ごっこの続きをやりましょうね
🔸
◇◆油小路にて◆◇
―平助くんの命日に寄せて―
慶応3年11月18日
それは「彼」が死んだ日。
晩秋の冷たい雨の中
私は
彼の最期の地 油小路を歩いていた。
ここに、彼の遺骸が横たわっていたんだ。
凍てついた地面の上に。
きれいな顔も、長い髪も、粋な着物も
何もかもが泥に汚れ、血にまみれて―。
無機質なアスファルト舗装の路地に
彼を悼む面影は何もない。
小雨にけぶる街角は
どこにでもあるありふれた風景。
「平助くん。
あなたの魂は、今もここにいるの?」
胸の中のつぶやきに
彼が答えてくれるはずもないけれど。
土塀の陰で立ち止まった私は
そっと目を閉じ、耳を澄ました。
私には聞こえる
あなたのうめき声が。
私には見える
あなたの苦痛にゆがんだ顔が。
それでも―。
それでも、あなたは
後悔していなかったんだと信じたい。
この日の「死」は
あなたが自分で選んだものなのだから。
最期の瞬間まで
男として、武士として
生きようとしたあなた。
誇り高く、勇敢に
戦って散ることを願ったあなた。
―そのとき。
薄れていく意識の中で
あなたは微笑んでいたのでしょうか。
あなたが斃れたこの場所に
今、雨は音もなく降り注ぐ。
私の心も雨に濡れ、にじんで、ぼやけて。
やっと私は
自分が泣いていることに気づくのだ。
もう会えないひとの生涯に
思いをはせながら。
言葉もなく立ち尽くす
秋の日の午後―。
《 To Aragorn 》 愛しのアラゴルンさまへ
友情という名の 熱き剣(つるぎ)もちて
戦う君の 魂(たま)の気高さ
闇を照らし 皆を導く星のごと
胸に秘めたる 花の面影
◆◇◆
「ロード・オブ・ザ・リング」の登場人物の中でも、私が一番好きだったのは、何といってもアラゴルン!
1作目の「旅の仲間」を見たときから、ストイックで憂いを秘めたその姿に恋してしまいました。
敵と戦う時のかっこよさ。アルウェンを見つめる情熱的なまなざし。何よりも、旅のリーダーとして、仲間をひっぱってゆく毅然とした態度……。非の打ちどころがない、というのはまさに彼のこと。
さらにその魅力は、第2作「二つの塔」で頂点に達します。このとき、画面を見ながら、私の想いは完全にエオウィンに同化していました。
どれほどあなたを慕っても、あなたにはすでにアルウェンという想い人が……。
私の恋は、決してかなうことはない。分かっています、そんなこと。
それでも――。
それでも、あなたを想っていいですか。
エオウィンの報われぬ想いはまた、スクリーンの中の人物に恋する私の切ない気持ちでもあったのです。
王となるべき宿命を背負いながら、最初はその運命から逃げているようにも見えるアラゴルン。
指輪を捨てる旅を通して、彼もやはり人間として大きく成長していったのでしょう。
第3作「王の帰還」では、名実ともに人間の王として見事に凱旋を果たします。
*
はらはらと
風に散る粉雪が
あなたの肩に 髪に
舞い落ちる
その雪に
イルミネーションが反射して
キラキラ光る
まるで
空いっぱいに瞬く
星のように
私は
あなたの手を握りしめ
端正な顔を
じっと覗きこんだ
あなたの瞳には
夜の街が
そして上気した私の顔が
映っている
あなたは
照れくさそうに
あわてて目をそらしたけど
私には
あなたの瞳の中に
煌めく星が見えたよ
確かに
見えたんだよ―
❄️
《 To Gandalf From Frodo 》
ぼくは 全然知らなかったよ
あなたが そんなに大きな力の
持ち主だったなんて
ただの(花火のうまい)魔法使いの
じいさんだと思ってた(コラコラ)
ずっと ビルボやぼくを
心にかけていてくれたね
いつだって温かいまなざしで
ぼくたちのことを
見守っていてくれたよね
あなたがいたから ぼくは
この望みのない旅を
続けることができたんだ
あの時
あなたが 自分の命とひきかえに
ぼくの進むべき道を
指し示してくれたから
指輪の重さに
押し潰されそうになるたびに
あなたの言葉が
ぼくを支えてくれたから
ぼくは信じてる
あなたは死んでなんかいない(絶対に!)
偉大な精霊であるあなたが
あんな所で死ぬわけがない
いつか いつかきっと
もう一度あなたに会える日が来るから
その時は
とびきりの笑顔で
あなたの胸に飛び込んでいくよ
ガンダルフ
大切な 大切な ぼくの友だち
◆◇◆
「ロード・オブ・ザ・リング」3部作は、本当に大好きな作品です。
中でも一番好きなのは、アラゴルンさまが活躍する2作目の「二つの塔」なのですが、1作目の「旅の仲間」も画面がきれいで、のどかなホビット村の風景など、とても印象的でした。
そして、とにかくすばらしかったのが、イアン・マッケラン扮するガンダルフです。
もともと「じいさま好き」な私は、この魔法使いのじいさまの魅力にころっとまいってしまいました(笑)。
フロドたちを見守る優しいまなざし、敵と戦う時の厳しい目、こんなすてきなじいさま見たことない!っていうくらい。
それだけに、1作目の途中で、ガンダルフが炎の怪物と戦って地底に落ちてしまったときは、悲しかったです。
「このままで終わるもんか、いつかきっと復活してくれる!」と固く信じてはいたものの……。
それだけに、2作目でパワーアップして戻ってきてくれたときはうれしかったですね。
*
◇◆もういいかい?◆◇
もういいかい?
まあだだよ……。
もういいかい?
歳三さん
そんなにあわてなくてもいいよ
もう少し ゆっくりしておいでよ
私はいつもここにいますよ
ずっと待っててあげるから――
いつだって そう言って楽しげに笑う
きっとあの頃から
お前は 俺たちとは違う地平に立っていた
まして今のお前には
時間なんて関係ないんだな
病のつらさや [殺]し合いの空しさや
俺たちへの気遣いや 心の痛みや……
そんな俗世の いっさいのしがらみから
解き放たれて
お前を縛るものは 何もない
それならいっそ
もう少し 待っていてくれるか
俺が 俺自身の生きざまってやつに
けりをつけられるまで
いつの間にか
鬼がひとりになってしまいましたね
歳三さん 背中が寂しそう……
俺が追いかけてた奴らは
みんなどこへ行っちまったんだろうな
鬼がひとりきりじゃ 鬼ごっこはできねえ
お前も待ってるだけじゃ つまんねえだろ
もう少し……もう少しだ
箱館は明日にも官軍の手に落ちるだろう
そうすれば 俺が戦う意味もなくなっちまう
血に染まった俺の人生に
ようやく幕が引けるんだ
すぐに行くから
お前の側へ
だから、総司――
もういいかい?
もういいよ……。
もう、いいんですよ
土方さん
今は ゆっくり休んでください
それからまた
鬼ごっこの続きをやりましょうね
◇◆◇
新選組が壬生に屯所を構えていたころ、沖田総司は、よく近所の子どもたちと鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいたという。
鬼の副長 土方歳三が、まさか一緒に鬼ごっこをしていたわけはあるまいが、総司とのやりとりに「もういいかい?」「まあだだよ」というフレーズを使ってみたら面白いかもしれないと思い、こんな詩を詠んでみた。
司馬遼太郎氏の名著「燃えよ剣」の中に、箱館陥落が目前に迫ったある日、土方の夢に、近藤勇や沖田総司、井上源三郎ら新選組の仲間たちが現れる、という一節が描かれている。
あるいは、連日の戦による疲労と緊張が見せた白日夢だったのかもしれない。そんな夢ともうつつとも知れない、懐かしい人との魂のやりとり(テレパシー?)を、私なりに表現したくて……。
近藤と別れてからの土方の背中には、なぜか寂寥感が漂っている気がしてならない。
どんなに華々しい活躍をしても、かれの目が見つめているのは、決して未来ではないからだ。
たった一人で孤独な戦いを続けていた土方にとって、箱館は最後の土地だった。
蝦夷共和国の夢が消えたときから、いやもしかしたら、江戸を捨てて北へ向かったそのときから、すでにかれは「生きる」ことを考えていなかったのではあるまいか。
男児として、武士として、いかに「タヒぬ」か――。
探し続けてきた答えが、明治2年5月11日の、土方の最期である。
地下の近藤や沖田に恥じることなく、土方は己の生きざまを全うした。自分自身の手で、引きちぎるように下ろした人生の幕は、見事としか言いようがない。
今ようやく、土方は穏やかな顔で、総司と鬼ごっこに興じているのだろう。
※5月30日は、沖田総司の忌日です。
《 To Aragorn From Eowyn 》
あなたの瞳に宿る深い哀しみは
私の力ではいやせないのでしょうか
この世の真実を映す
空色の瞳
たとえ世界が絶望の闇におおわれ
最後の希望が消え果てようとも
あなたは決してあきらめない
立ち止まり 膝を屈しはしない
その強さは
あなたがいつも胸底に抱きしめている
愛しい方への愛の力のせい?
わかっています
私の恋はかなわぬ願い
この想いはあなたには届かぬのだと
ああ あなた
心優しき戦士よ
ほんのひととき立ち止まり
私を振り向いてはくださいませんか
(私に笑いかけて 私を好きだと言って)
……とうにあきらめた 哀しい夢……
愛する方の面影は
なぜそんなにもあなたを苦しめるの?
何をためらっているの?
人間が か弱く 傷つきやすく
限りある命であることは
それほど罪なことですか
ひとであれ エルフであれ
愛しいと思う心に
偽りなどあるはずもないのに
もし許されるのなら
せめて今宵一夜
そのアイスブルーの瞳の奥に宿る哀しみを
私の胸にあずけてください
恋しいあなた――
◆◇◆
「ロード・オブ・ザ・リング」の第2作「二つの塔」は、私が初めて映画館へ2度見に行った映画です。
とにかくアラゴルンさまが好きで好きで…。上映期間がもう終わる、という寸前になって、矢も盾もたまらず映画館へ足を運びました。
「二つの塔」では、報われないと知りつつ、アラゴルンに激しい恋心を抱くローハンの姫君エオウィンに、まるで我が事のように感情移入をしてしまったのです。
彼女が慕ったアラゴルンには、美しいエルフの姫アルウェンという恋人がいます。
どんなにあなたのことを想っても、あなたの心は決して私に向くことはない。
分かっていても、それでも、あなたを愛さずにはいられない…。
そんなエオウィンの切なさは、今まさにスクリーンを通してアラゴルンに恋している私の気持ちを映すかのようでした。
*