『俺、もう少ししたら死ぬわ』
思わず食べていたメロンパンを
落としてしまった。
「…ごめん、なんて?」
『だーから、俺はもう少ししたら死ぬ』
僕の方なんか見向きもせずに
スマホを見つめながら彼は答えた。
『俺さー、死んだ後のこと
すごい興味あるんだよね。
人の意識って死んだらどうなると思う?
無くなんのかな、やっぱ』
…こいつまた変なこと考えやがって。
落ちたメロンパンを拾いながら
彼に相づちをうつ。
「まぁ確かに僕も興味ある」
『だろー?だからさ、
俺一旦死んでみようと思って』
「それはわかんないわ。
てか一旦って…
なに、生き返るつもり?」
『いや生き返るわけねーじゃん
何言ってんの?』
「いやお前が何言ってんの?」
こいつほんと殴ってやろうか。
『まぁとにかくさぁ、俺あと少しで
死んじゃうから、なんかしてよ』
「なんかって…そんなアバウトな…」
『頼むって。笑
俺が死んでも忘れられないような事』
こいつは僕に何を求めてるんだ?
笑えないお遊戯でもしてやろうか。
「…僕お前が思ってるほど
面白くないよ?」
『いいんだよお前で。
面白くないってのも知ってる』
「うわひど…」
『自分で言ったんじゃねーか笑
まぁなんか考えといてよ、
期待してるから』
にはっと聞こえてきそうな笑顔は、
もうすぐ死ぬつもりの人間の顔には
見えなかった。
いつもの、僕の好きな笑顔だった。
「…まぁ考えとくわ」
メロンパンを小さくちぎりながら
僕は答えた。
『あれ、メロンパン食べないの?』
「お前のせいで落としたんだよ。
仕方ないからその辺の鳥にあげる」
『へぇ…そっか。
あとでメロンパン奢るわ』
「よろしく。…ところでさ、
ずっと気になってたんだけど
…なんでスマホ逆に持ってんの?」
『は、?』
「手も震えてるし」
『いやッこれは違、』
「バレバレなんだけど。
死後の事興味あるっていうのも
嘘でしょ。怖いならやめなよ」
僕に痛いところを突かれた彼は
ため息をつきながらしゃがみ込んだ。
『ちげーよ。死ぬのは別に怖くない』
「あっそう。僕は別になんでもいいけど」
『っ…お前なぁー…
人が勇気出したってのに…』
「知らないよそんなの。
だいたいなんで急に…」
彼の方を向くと、彼と目が合った。
あぁ、この目だ。
『俺はお前に生きててほしい。
死後の事より、お前がいる未来の方が
興味ある』
嘘が何も混じっていない、綺麗な目。
この目のせいで僕は今まで死ねなかった。
辛い治療に耐えれたのも、
何もない日常を終わらせなかったのも、
全部、こいつが僕を見てくれたから。
『お前がいない未来は1ミリも興味無い。
お前が死ぬんなら俺も死ぬ、
それだけだ』
「…お前、僕のこと大好きか」
『うるせーよバカ!
雰囲気ぶち壊すなよ笑』
「僕らの間に雰囲気なんか必要ないだろ。
それよりほら、
君の大好きな僕が死ぬ前に
さっさとメロンパン奢れ」
『はいはいわーったよ。
ったくしょーがねーな俺の相棒は』
メロンパンをばら撒き、
歩き出した彼のあとを追いかける。
追いつく手前で、彼の言葉を思い出す。
“俺はお前に生きててほしい”
今までこんなことを言ってくれた人は
1人もいなかった。
まぁ俺、家族いないもんな。
でも最初がこいつとか、なんか腹立つ。
だから、後ろから思いっきり
彼の背中を叩いた。
『痛ってぇ!何すんだよ!』
「メロンパンの仇だわバカ」
『いや罪が重いって!笑』
痛がる彼を見て
さすがにやりすぎたと反省する。
『ちゃんと奢ってやるから。
さっさと行くぞ』
彼は僕の手を引いて歩き出した。
「…お前まで死ぬなよ、ばか」
『ん?なんか言ったか?』
「なんも言ってないわバカ」
『はいはい笑』
「僕、もう少し頑張るから」
『ん、そっか』
「高校も卒業する」
『そうだな。
一緒に卒業しようぜ』
「成人式も出るから」
『振袖は絶対着ような』
「彼女も作る」
『お前それは許さねーぞ?!
抜け駆け禁止!!』
『一緒にたくさん生きようぜ』
「…うん」
僕が泣きそうになったの、
バレてないといいな。