STRAWBERRY MOON
特別編
嘘 4
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NOSide
AM4:10
夜が明け始める少し前。
華帆は目を覚ました。
腰に奔る痛み。
首元と胸元に赤くついた彼からの印。
全て、忘れなければいけないこと。
隣に眠る彼を見る。
交わってはいけないのに、私は彼を求めた。
……赤井さんを裏切った。
許してもらおうなんて、そんな軽いものなんかじゃない。
許されないこと。
それでも、拒もうとしなかった。
ジ「…華帆、」
目が覚めたのか、薄く目を開けたジンに腕を引かれた。
そして、抱きしめられる。
その温もりに応えるように、華帆は腕を回した。
ジ「…帰らねぇのか?」
『……帰れない、』
ジ「……」
薄く肌に触れる雫。
華帆は泣いていた。
目元を赤くしながら、声を殺すように泣いていた。
『……ごめんなさい、』
ジ「……なぜ謝る」
『…私は、誰かを傷つけることしかできない、』
ジ「……」
『…ジンさんのことも、私は、』
華帆の顔を上げさせる。
俺を見上げるように見つめている。
ジ「……利用したってことにしておけ」
『え、?』
ジ「……俺はお前に傷つけられた覚えはない。…勝手に一人で決めつけるんじゃねぇよ」
泣くな、そう言って涙を拭った。
彼なりの優しさか、その言葉に涙が溢れた。
『ジンさん、』
ジ「……」
彼は私に口づけた。
優しく、…でも深く。
顔が離れると、二人の間に銀の糸が見えた。
ジ「…浮気なんて勘違いするな。…俺達は互いに愛してなんかいねぇ」
そう、浮気なんかじゃない。
身体だけの関係。
互いに心なんてない。
そう偽って、現実から逃げればいい。
ジ「……」
華帆に覆いかぶさり、口づける。
最後まで堪能したかった。
もう、これが本当に最後になる。
偶然でも、必然でもない。
俺達を引き合わせたのは、この世に本当にあるかもわからない運命なのだ。
ジ「……次目が覚めるときは、俺はいない」
『……置いてくんですか、あの日みたいに、』
その言葉に目を逸らす。
こいつの側にいるのは、俺ではない。
こいつだってわかってるはずだ。
彼女がかけているシーツに手をかける。
ジ「……俺は、お前とはいられない」
華帆は顔を歪めた。
ジ「…最後だ、これが本当にな」
『…ジンさん、』
首に手を回してきた。
受け入れるのは、拒まないのは、。
問うこともせず、首元に吸いつく。
小さく反応する華帆をさらに攻める。
涙が滲む瞳。
吸い込まれそうなくらい深い黒。
純粋さがまだ残る彼女。
ジ「…お前は俺を愛せない」
口をつぐみ俺を見た。
華帆の瞳から涙が零れた。
ジ「…忘れろ、…わかったな?」
『……そんなの、無理だって、わかってますよね、』
ジ「……」
『…ずるいです、あなたは、』
涙を浮かべ、俺にそう言った。
……ずるい、か。
ジ「……罪悪感はないのか、あの男に」
『…っ、』
ジ「…あるのにも関わらず、他の男に抱かれるなんてな。…俺に期待させるお前もずるい女だな」
頬に手をあてる。
ジ「…抱いてほしいのか?」
そう問いかけると、少しの間の後、彼女は頷いた。
それに薄く笑う。
ジ「…華帆」
『…』
瞳を歪めた。
迷いのあるようなそれに気づかぬふりをし、口づける。
『…ジン、さん、』
呼び声に応えるようにもう一度口づけた。
夜が明け始めた。
別れまでの少しの時間、俺は華帆を求め続けた。
AM6:20
微かに目を開ける。
カーテンの間から覗く眩しい太陽の光。
鳥のさえずりとシャワーを浴びる音がする。
左指を見ると、はずされたはずの指輪がつけられていた。
彼がつけてくれたのだろう。
本当に別れを意味しているということに、私はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
私用に、と棚の隅に置かれた丈長めのパーカーを着て、再び寝台に腰掛けた。
シャワーの音が止み、浴室に続くドアが開いた。
ジ「……起きたのか」
『…私が起きてない時に帰るつもりだったんですか?』
ジ「…さあな」
まだ微かに髪が濡れている。
彼は私の隣へ腰掛けた。
そして私の腰を引き寄せ口づける。
その慣れたような行為になぜか気持ちが揺らいだ。
『……ジンさんって、慣れてますよね、こういうの、』
その言葉に驚き華帆を見る。
ジ「……てめぇに何がわかる」
『…なんとなくです』
ジ「…慣れてようが、関係ない」
仕事をするだけだ、そう言い、すぐ側にある煙草を手にとった。
『……仕事、ですか』
ジ「……なんだ、」
『…好きでもない人とそういうことしても、何も変わりませんよ、』
ジ「……」
『…嫌なら、断ればいいのに、』
ジ「…断らねぇだけだ」
『…え?』
煙草に火をつける。
煙が宙を舞う。
鼻をくすぐる匂い。
ジ「…好きでもねぇ女抱いて、それで欲を満たす、…男なら誰でもすることだ」
『そんなこと、』
ジ「ないって言えるのか?……お前のこともそう考えて抱いてるとしたらどうだ?…確実にないなんて言えるわけが」
『私のことも、ですか?』
言い終わる前にそう華帆は言った。
華帆の顔を見る。
俺は息を呑んだ。
彼女の頬に涙がつたっていたのだ。
『…なんとも、考えてなかったの?』
ジ「……華帆、」
『…私は、ジンさんのこと、』
“軽い気持ちで考えてないですよ”
消えいりそうな声でそう言った。
目を見開く。
軽い気持ちではない、か。
俯きながら泣く華帆に手を伸ばそうとした。
だが、寸前でその手を止めた。
…このままでは、確実に戻ることができなくなる。
ジ「……」
『…ジンさんは、私のこと見てはくれなかったの?』
答えられない。
真実も、嘘として偽らなくてはならない。
『…なんで、何も言ってくれないんですか、?』
止まらない涙を拭っている。
その姿に俺は何もしなかった。
することができなかった。
ジ「……愛も、言葉も、全て嘘の塊なんだよ、」
呟いた言葉は決して思ってはないこと。
華帆を前にしては思わなかったこと。
『……それが、ジンさんの本音ですか、?』
ジ「……ああ」
『………嘘つき、』
投げやりに呟く。
…わからなかった。
彼が本当は何を思っているのか。
私は私自身の気持ちには気づいていた。
初めて彼に会った時、…その時から私は一度も彼を忘れたことはなかった。
忘れられなかったのかもしれない。
特別な感情なんて芽生えてはいけなかったのに、。
赤井さんを、裏切るという意味だともわかっていたのに、。
ジ「お前はどうしたい、…」
頬を微かに擦れた指。
返事に迷い目を逸らす。
『……わからない、』
その言葉に彼はそうか、と呟いた。
ジ「………そろそろ帰れ」
『…でも、私は、』
ジ「…殺そうと思えばお前も殺せるということを忘れるな」
銃口を向ける先は華帆の額。
その行動に瞳が揺れる華帆。
これ以上俺とは関わってはいけない。
どんな風に思われようが、俺はこいつを突き放す。
持ちなれたはずのベレッタは不思議と重かった。
ジ「俺の気が変わらない内に消えろ」
『…ジンさん、』
ジ「……目障りだ、…帰らないと殺す」
『……ジンさんは、そんなことしない』
ジ「…俺は殺るときは殺る」
『…そんなことない』
『…こんなの向けないでください、ジンさん、』
ジ「っ、」
怖がっているはずの彼女は、ベレッタをそっと握った。
悲しそうに俺を見ている。
『ジンさん…』
ジ「…チッ、…ふざけるな」
彼女を押し倒す。
胸元に銃口を押し付けた。
ジ「…俺はお前が思っているような善人じゃねぇ」
『…』
ジ「優しい?…ふざけるな、何を馬鹿なことを言ってる。少なくとも一人、てめぇの目の前で男を殺したことだってある。疑わしきは罰する、俺は組織の為ならこの身を捧げる。………俺はお前を殺せる」
何も言わず、俺を見ている。
ジ「…早く消えろ、この場から」
壁にベレッタを向け、一発打ち込んだ。
空いた穴から煙が出ている。
『…っ、』
ジ「……次はお前の頭だ」
ここにいるのは本当の彼?
今まで見ていたのは偽りの彼?
私を愛してるって言ったのは、どっちの彼?
服の上からでもわかる銃の冷たさ。
そして、私を見つめる瞳。
言葉の本気さに、身が震える。
ジ「…忘れろ、俺のことも、今まであったことも」
ずるい言い方。
そんなのできないことくらいわかっているだろう。
なのに、彼はそう言って私の心を締め付ける。
どこか悲しそうなのは気のせい?
彼が本当に愛してくれているのなら、応えられるものなら応えたい。
『…好き』
ジ「っ、」
不意に言葉にされたそれ。
ジ「……やめろ、反吐が出る」
『……』
ジ「…あんなの嘘だって、わかんねぇのか」
強く言った言葉とは裏腹に、銃口は華帆の胸元からはずれ、寝台のシーツの上へとずれた。
ジ「……消えろ、」
『…ジンさん、』
ジ「…頼むから、消えてくれ」
初めて聞いた彼の弱い声。
悲しみのあまり涙が出た。
ジ「…お前は組織からはまだ認識されていない。…今のうちに早くこの場から去れ」
もうすぐ組織の奴が迎えに来る、そう言うと彼は私から離れた。
私を逃がそうとしてくれているのだ。
それは不器用な彼なりの、私に対する最後の優しさなのだろう。
ジ「…いいか、俺が指示したら1階に降り、裏口から出ろ。…真っ直ぐ通路を行くと大通りに出る、……後、40秒だ」
時計を確認し立ち上がった。
ジ「…35秒」
『…いいんですか、貴方は、』
ジ「……30秒」
『…組織の為なら、私を逃さないほうがいいのに、』
ジ「…25秒」
『…なんで逃してくれるの?』
ジ「……20秒」
『…ジンさん、』
ジ「……」
カウントダウンをやめた。
時計と見つめ合ったまま、彼は何も言わない。
『……私のこと、本当はどう思っているんですか、?』
ジ「……」
背を向けたままの彼にそう聞く。
『…嘘なんて、聞きたくないです』
ジ「……」
知りたい。
…これで別れならなおさら。
偽りの言葉じゃなくて、本当の彼自身から。
『…本当のこと、言って、』
私は、貴方にとって何なのか。
彼は私に近づくとそっと口づけた。
ジ「……これが答えだ、」
彼の後ろに見える時計の長針が、40秒を指した。
ジ「…帰れ」
『…っ、』
彼は鍵に手をかけ、部屋のドアを開けた。
真剣な眼差しが私に刺さる。
口づけが答えなんて、あまりにももどかしい。
それでも、もう聞くことはやめた。
『……さよなら、…ジンさん、』
別れなんて惜しんでいたら、きっと戻れなくなる。
だから一言だけの別れを告げた。
そして後ろを見ず、エレベーターに乗った。
エレベーターの扉が閉まる音が聞こえたと同時に泣いた。
頬をつたう涙を必死に拭いながら、今まで胸に秘めていた想いを全てさらけ出すように……。
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