#さざ波

あの夏、聞いていた

夏風にそよぐ風鈴の音色
木立に響き渡る蝉時雨
ぼくを呼ぶきみの声

あの夏、見ていた

さざ波押し寄せる海
入道雲に包まれる空
ぼくを見るきみの目

忘れないでいてくれるかい

ぼくが君を好きだったこと

この夏、また聞きたくて
この夏、また見たくて

ぼくは今もきみを忘れない

「私が死体になったら、
君と海へ流して欲しいの。」

さざ波の間を、君の足が飛び越える。
揺れる長髪が透ける光景は、この世の何より美しかった。

"きっと君より重いと思うけど"とはにかむ君は今、死について話しているのに。

夕闇の砂浜に寄せては返すさざ波

君への想い絶え間なく打ち寄せる

"夕陽が綺麗ですね"言い出せなくて

きらきらと
海面はざわつき

波は静かにさらって
浜辺を打つ

翳る空から
黄昏が舞い降りて

切なく空を
にじいろに染める

不規則な
感情を沈めて

あなたは
優しく包んでくれる

肩をそっと抱いて

からだごと
抱きしめてくれる

透き通るような
青い海も

水面が穏やかに揺れて
匂艶に染まる

きらめくさざ波に
今日一日を洗い流して

悔し涙を拭おう

翳る空から
黄昏が舞い降りるから

さざ波が吐息を漏らし
黄昏を呼び起こす

渚を静かに洗い
鏡のような水面を
皺を寄せながら走り抜けていく

トキ色に染まる
黄泉へ誘う旅路のように

さざ波のように
平穏に過ごせたら
幸せなのに……

さざ波が
砂浜に
ひたひたと打ち寄せる

海面は
月の光が当たって
きらきらと揺らめいて

どきどきした
君の鼓動は不規則で

僕の胸に伝わって

静けさが
どんなに無口でも

『涙のさざ波』

ヤケ酒に夜が明けて
ふらつき砂浜歩いてた
飲み干して空いたボトル
思い出いっぱい詰め込んで
いっしょに海へ投げ捨てた

海に捨てた空ボトル
さざ波足元打ち寄せる
ボトルを運んで打ち寄せる
涙と思い出打ち寄せる
何度も何度も打ち寄せる