はじめる

#まだ見ぬ世界の空の色は

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全61作品・






『天才って言葉は嫌いなんだ』




それが、君の口癖だった


























〈酸素などない〉




































『テスト返すぞー』




担任のその言葉に、教室中からブーイングが起こる。
生徒のそんな様子なんてお構い無しに担任はどんどん名前を呼んでいく。




『浦瀬は今回も一番だ。流石だな』




その言葉と共にテストを渡す先生。




『理人またかよ!』




『やっぱすげー』




『理人頭いいよね!!』




『流石だわ』




『どんだけ勉強したらそんなに点取れんだよ』




それに同調し口々に彼を褒めるクラスメイト。
羨ましい。凄い。流石。
そんな声が飛び交う。




『やっぱお前天才だな!』




その言葉に、彼は人当たりのいい顔で笑っていた。










































放課後屋上で空を眺める。
それが私の日課だ。




空を見ていると、全てを忘れられる。
私だけの特別な時間。
の、はずだった。




『天才天才ってなんなんだろーな』




「褒めてるんでしょ」




『嬉しくないわ』




「今日も作り笑顔だったね」




『バレてたのか』




「まぁ」




どうやって知ったのか、浦瀬君もここに来るようになっていた。
話をするというより、一方的に彼が話している感じだ。
私は聞き役。




今日はテストの愚痴らしい。
テストのあとは毎回毎回話している。








































『天才って言葉は嫌いなんだ』




いつしか彼がそう言っていたことがある。




『天才ってのは、元から才能がある人を指す言葉だろ』




『どんなにその人が努力してても、天才って一言で片付けられるんだ』




『それって理不尽だろ』




そういう彼の表情があまりに苦しげで切なげで。
ただ、そうだね。としか言えなかった。




































『天才って言葉は嫌いなんだ』




「そうだね」




『俺を理解してから言えよ』




「そうだね」




沈黙が二人の間を流れる。
空がゆっくりと頭上を流れて、雲が新しい雲を連れてきた。




穏やかで、それでいて気まずくない時間が私たちを包む。




『お前さ』




沈黙を破ったのは彼の方だった。
顔は空に向けたまま、意識だけを彼に向ける。
こちらを見たのが気配でわかった。




『何も言わねーのな。他の奴らと違って』




「なに。言って欲しいの?」




ちらりと視線を彼に向ける。
困惑したような、驚いたような。
そんな顔。




『いや。そうじゃねーけど』




「でしょ。だから言わない」




空に視線を戻した。




彼が望んでいるのは、賞賛でも礼讃でもない。
褒め言葉ではない何か。
それはわかる。




ただ、私はその言葉を知らない。
だから相槌を打つだけ。
他にどうしたらいいかなんて、分からないし。




「浦瀬くんはさ」




ごろりと屋上に寝そべった。
一面が青空になる。
雲は流れて何もなかった。




「頑張ってると思うよ」




「努力して努力して、みんなに認められるように頑張って」




「理不尽な期待にも耐えてる」




「それって十分凄いよ」




ま、私に言われても説得力ないだろーけどね。と付け足して、よっと起き上がった。




これも賞賛や礼讃に入るのだろうけど。
彼が嫌う彼を見ない第三者たちと違う、私の精一杯の本音。




『なに。馬鹿にしてんの?』




「まさか。精一杯の褒め言葉ですよ」




『ははっ。そりゃどーも』



そう言い浦瀬くんは笑った。
作り笑顔じゃない笑顔なんて久しぶりに見た気がする。




あぁ、そういやこの人、笑うと子供っぽくなるんだった。
唐突にそんなことを思いだして。
その顔に私も口元が緩むのを感じた。




『__』




彼がボソリと何かを呟いて。
また笑った。















































『浦瀬が自殺した』




翌朝のHR。
朝の騒がしさに包まれていた教室が、水を打ったように静まり返って。
教室の空気が一瞬にして重くなった。




『昨日の夜、自分の部屋で…』




『何か心当たりがある人は、先生の所まで来て欲しい』




その言葉と共に、少し遅れて教室が昨日とは別のどよめきに包まれる。




『…おい、まじかよ…』




『理人が自殺なんてありえねーよ』




『何か悩んでる様子あった?』




『もういや…理人が…なんで…』




『勉強も運動も出来て天才なのにさ』




動揺。喧騒。悲鳴。
騒ぎ出す男子。
泣き出す女子たち。
顔面蒼白の担任。




そんなざわめきの中で、私は一人窓の外を眺めていた。
うるさいくらいのざわめきも、私も耳の中には入ってこない。




彼の机の上に置かれた、花瓶に活けられた百合の花。
クラスの状況なんて知る由もなく、風に吹かれてゆらゆらと気持ちよさそうに揺れた。




『なんで』




『どうして』




『『あいつは天才なのに』』




浦瀬くん。




この世界は何も君のことを分かっていないね。
こんな時まで、君がどうして死んだのか分からないんだから。




聞こえてたよ。
君があの時呟いた言葉。




『ありがとな』




そう言ってたね。




それを聞いて何となく。
本当になんとなくだけど、こうなることは予想してたよ。
あの時の君の声があまりにも掠れてて、悲しげで、それでいて優しげだったから。




止めればよかったとは思わない。
きっと止めたって、君はこの選択をしただろうから。




君にとって、この世界は残酷すぎたね。




百合の花の花びらが、はらりと散って机に舞った。












「君の耳が覚える最後の言葉が、私でよかった」

榊 夜綴・2021-05-15
題名が!!わからん!!!!(クソデカ大声)
題名迷いに迷ってこれです
内容と合ってるのかな((
自信はない(断言)
連日投稿すみません
小説
酸素などない
天才
綺麗事
自殺
別れ
世界
生きづらい
ポエム
独り言
秘密の愛言葉
NOTE15の日
まだ見ぬ世界の空の色は
村人Aにも花束を。
誰かのタグ借りたの久々な気がする
出来損ないの最大限
タグと合ってないけど許して((



〈ブラックラブ〉






ゆっくりと目を開けた。


薄暗い部屋の中。だんだんと視界がはっきりしてくる。


見慣れない天井。枕元にあるライトはぼんやりと部屋を照らしている。壁に貼ってある今人気のロックバンドのポスターに、シンプルな黒いバック。


ここは私の部屋ではない。


起き上がろうとして、体が動かないことに気がついた。縛られている。



『あ、起きた?良かったー。もう起きないかと思ったよ』



突如視界一杯に顔のドアップが広がる。にこにこと笑いながらさらっと恐ろしいことを口にする、彼。同じクラスのクラスメートだ。


体を動かそうともがこうにも、全く体が動かない。



『無駄だよー。結構きつくしたからね』



これをやったのは彼なのか。発言からそう分かる。


なんでこんなことを。


そう聞こうとして、口すら聞けないことにようやく気がついた。口にガムテープらしきものが貼ってある。


喋れないので目で訴えかける。じっと彼を見つめる。



『そんなに見つめないでよ。君に見つめられると照れちゃうな』



本当に照れくさそうに笑う。


全然気付いて貰えない。照れるなら勝手に照れとけ。この状況はなんだ。心の中で彼に問いただす。



『ねぇ、それよりさ』



彼が私に声をかける。私に人権はないのだろうか。


この状況で反抗も出来やしないので大人しく聞くことにする。



『昨日話してた男、誰?』


『俺以外の人と仲良くするの?』



彼がじっと私を見つめる。そんな事言われても、私は貴方のものじゃない。誰と話そうと自由だ。質問をするなら口のガムテープを取って欲しい。そうでないと答えられない。



『俺には君しかいないのに。君は他の男と仲良くするんだね』



彼の表情がすっと冷たくなる。あまりの無表情に背中に悪寒が走る。上から見下ろされるように見られているのがより怖さを引き立てる。


この人、やばい。直感がそう警鐘を鳴らす。



『先週の土曜日もどっか家行ってたし』


『あれ、誰の家なの』



全身の毛がゾワッと波打った。思わず目を見開く。なんでそんなことを知ってるんだ。



『こないだあげたくまのストラップ。あれ、GPS付きなんだ』



心を読んだかのように彼が答える。


少し前、彼から貰った可愛らしいくまのストラップ。


『君に似合うと思うんだ』


そう笑って言ってくれたあれが。あまり接点のない彼がくれた事が不思議だったが、くれた事が嬉しくて受け取った。


受け取るんじゃなかった。今更後悔した。



『俺はね』



彼が私の近くにしゃがみこむ。ベットに両手と顎を乗せてこてんと首を傾げる。



『初めて会った時から、君と同じクラスになった時からずーっとずーっとこうしたかった』



愛おしいものを見るような目で私を見つめる。今はそんな彼に恐怖しか感じなかった。



『君は覚えてないだろうけど、俺達は一度会ってるんだよ』


『バスの中でね。俺はその日凄い具合が悪くて、バスの中なのにその場にしゃがみこんじゃったんだ』


『みんな面倒事に関わりたくなかったんだろうね。誰も助けてくれなかった。意識がなくなりそうで、辛くて苦しくて...』


『そんな時、君が助けてくれたんだ』


『女神だと思ったよ。俺は君に会うために生まれてきたって確信した』



恍惚の表情で、私ではないどこか遠くを見ながら語る彼。恐怖と驚きとその他の感情が私の中で渦巻く。



『それから君の後を尾けて家を知ったんだ。どこの学校に行ってるかも調べて、君と同じところに転校してきたんだよ』


『大変だったよ。君にふさわしい男になるのは』


『猛勉強して偏差値10上げて君と同じ学校に転校して。髪も染めてサラサラのストレートにした。眼鏡もコンタクトに変えた。性格も陽キャになるよう明るく振舞った。辛かった時もあったよ。でも、君のためって思ったら平気だった』


『俺はね、君に一目惚れしたんだ』



照れくさそうに、嬉しそうに笑う彼。何の悪意もみられない笑みが逆に怖かった。



『あ、これ君のスマホ。俺以外の連絡先消しといたから』



見せられた画面には彼の名前以外何も無かった。



『にしてもびっくりだよ』



スマホの画面を見ながら彼が言う。



『君、友達多いんだね。男も』


『俺じゃだめなの?なんで俺以外のやつとも話してるの?君は俺のこと好きなんでしょ。好きだから俺のこと助けたんでしょ。なのに、ねぇ、なんでなの』



語尾を荒らげて一気にまくし立てるように言って迫る彼。その表情は冷酷さとはまた別の怖さがあった。


とんでもない勘違いをしている。私は彼を好きでもなんでもない。でも言ったところで逆上されるだけだ。そんな様子が目に見えて、恐怖で体が震える。



『あぁ、そっか』



彼がふっと笑う。



『俺の愛が足りないんだね。もっと俺に愛して欲しくて、他のやつと話して俺に嫉妬させるような真似するんだ。もう、可愛いなぁ。君は』


『あぁ、そんな怯えた顔しないでよ』



そっと彼の手が私の頬を撫でる。反射的に体がビクリと震える。



『大丈夫、もっともっともっともっと愛してあげるから』



『これから2人でずっとずっと一緒にいようね』



ゆっくりと囁くように潜められた声が耳に入り、全身を駆け巡っていく。


彼は私の髪をそっと手に絡みあげて口に当ててキスをするようにして



『愛してるよ』



そう、言った。

榊 夜綴・2020-08-16
ブラックラブ
小説
ヤンデレ
クラスメート
片思い
束縛
独占
ポエム
独り言
もしも私が魔法使いなら
NOTE15の日
まだ見ぬ世界の空の色は




〈「「あのね、」」〉












「別れて欲しい」




1時間前、彼氏にそう言われた。




怒りとか悲しみとか




そんなものは湧き出なくて




「なんで?」




そう聞いた。




まぁ、答えはわかってるけど。




「君の妹が好きになった」




ほら、やっぱりね。




この人で何人目だろうか。




妹のことを好きになったと




私が振られるのは。




数えるのもめんどくさいから数えてないけど




既にもう慣れてしまった。




「わかった」




そう返事をし




彼に背を向けて学校を出た。




































雨が降ってきた。




生憎傘は持っていない。




走るのもめんどうで




そのまま歩き続けた。




9月の雨は体をあっという間に冷やしていく。




ツンと雨の匂いが鼻腔をくすぐる。




雨は、嫌いじゃなかった。










































びしょ濡れのまま玄関を開ける。




タオルは用意されていなかったので




そのまま廊下を歩いた。




「__よねー」




妹の声が聞こえる。




どうやらもう帰ってきているらしい。




誰かと電話しているようで




思わず聞き耳を立てた。




「でさー、また振られたっぽいんだよね」




「彼から連絡来たし」




「「お姉さんと別れたから付き合って欲しい」って」




「ほんとウケるんだけど」




笑いながら話す妹。




私が後ろにいることには気づいていないらしい。




そのまま大声で話し続ける。




「え?付き合うわけないじゃん」




「姉さんと別れさせたかっただけだし」




「ほんとムカつくんだよねー姉のくせに」




不思議と頭は冷静で




あぁ、そんな風に思ってたのかと




納得がいった。




「んじゃね。ばいばーい」




切り終わったのを見計らい、部屋に入る。




「なに、帰ってたの」




そんな目で普通見るかね。姉を。




「あ、もしかして今の聞いてたー?」




全部全部丸聞こえでしたよ。




「ごめんねー。彼氏取っちゃって」




「でも私のが魅力的ってことだからさ、仕方ないよねー」




「次の彼氏探したら?まぁまた私が取っちゃうけどね」




心底可笑しそうに笑う妹。




そこまで言って




ずっと黙って立っている私を不思議に思ったのか




訝しげな目を向ける。




それを合図に、近くにあった灰皿を手に取った。




振り上げると、妹の顔が恐怖に歪んだ。




そんな顔も出来たのかと




コンマ数秒の間にそう思った。



































気が付くと辺りは血塗れで




妹は倒れていた。




息をしていないことはひと目でわかった。




ゴトリと灰皿が手から滑り落ちて




私は家を飛び出した。































































雨が止んでいない中をひたすらに走った。




肺が痛くなって脚が悲鳴をあげても走り続けた。




気付くと街は遠くにあって




近くには木々と森しかなかった。




ぽつんと建つ廃屋を見つけたので上がり込んだ。




ギシギシと今にも崩れそうな廊下を進んで




階段を上がり、2階に上がる。




ベランダを見つけたのでそこから街を眺める。




雨のせいか街明かりもぼやけて見える。




後悔はしていなかった。




怒りも何もないのに




こんな行動に出たのが不思議だった。




私は感情が欠落しているのだろう。




血が着いた制服が雨を吸って重い。




「勝手に人の家に上がらないで貰いたいね」




振り向くと男の子が立っていた。




歳は私と同じくらいだろうか。




タバコを片手に、ゆっくりと近付いてくる。




1人分のスペースを空けて隣に立つと




フゥーッと煙を吐き出した。




「何してんの。こんなとこで」




「雨宿り」




ふぅん。と言うと




彼は街を眺めながらまたタバコを吸い始めた。




体は雨に濡れ、髪はボサボサ。




おまけに制服は血塗れ。




こんなにも下手くそな言い訳は無いだろう。




でも彼は何も言わなかった。




私を見て察したのかもしれない。




遠くで微かにパトカーのサイレンが聞こえた。




「住居不法侵入だな」




「なにが」




「君の罪だよ」




右手をタバコに添えながら頬杖をつき




視線をチラリとこちらに寄越した。




「貴方もね」




「ん?」




「タバコ」




「あぁ」




彼は言い、タバコを口から離した。




「もう慣れたよ」




「慣れちゃダメでしょ」




「そりゃごもっとも」




ニヤリと笑う彼は、どこか大人っぽくて




やっぱり子供だった。




「戻るのかい?」




「何処に?」




「君の居場所にだよ」




「戻れないし、戻りたくもないわ」




「だろうね」




「貴方は戻らないの?」




「言っただろ」




「ここが僕の家だって」




今度は体ごと私の方を向けて言った。




オンボロのボロ屋なのに




この家は何処か彼に馴染んでいた。




「そう」




「それじゃ私もここに住もうかしら」




「そりゃいい。賑やかになる」




「本当にいいの?」




「私、これよ?」




自分の服装と自分自身をかわるがわる指さす。




彼はニヤリと笑い




「面白そうだからいいさ」




「変わった人ね」




「君もだろ」




フッと笑うと、彼がふと真面目な顔になった。




「ちょっと変なこと言ってもいいかい」




「奇遇ね。私も言おうとしてた」




2人で顔を見合わせて




「「あのね、」」




「私と付き合ってくれない?」
「僕と付き合ってくれないか?」




雨はまだ、止みそうにない。

榊 夜綴・2021-09-24
小説
「「あのね、」」
出会い
姉妹
家族
ポエム
独り言
花束を君に
まだ見ぬ世界の空の色は

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に61作品あります

アプリでもっとみる






〈海の味を知っている〉















『ねぇ、海行こう』




最高気温を昨年より2℃更新した夏も、君の気まぐれは健在だった。




冷房の効いた部屋。
ノックもなく開いたドア。
開口一番君が言ったのは、朝の挨拶ではなく海への誘いだった。




「なんで海?」




『なんとなく』




君は猫みたいだと思う。
気まぐれで掴みどころがない所とかそっくりだ。




「いいよ」




『じゃあ行こ』




断る理由もないので軽く了承する。
返事を聞くや否や、君は部屋を出ていった。




この一分足らずのやり取りで、君が僕の方を見たのは十数秒だった。


































『海の水が青いのは、青い光が吸収されずに海の中で反射するからなんだって』




「…どこで聞いたのそんなの」




『秘密』




堤防に腰掛ける僕の隣で、君がそんなことを言った。




相変わらずだと思う。
不用意に近付いてきたと思えば、手をすり抜けていく。
君の行動は予測できない。昔から。
AIですら君のことは分からないんじゃないかと思う。




ふと君が立ち上がり、裸足になって海に入った。
冷た。と呟いて。でもそれ以上は何もせず突っ立っていた。




強くはない、けれど思わず目を閉じるほどの真っ直ぐな風が吹いて、彼女の髪が靡いた。
映画のワンシーンみたいで、僕はただただ見とれていた。




『ねぇ、おいでよ』




「やだよ」




『なんで』




「濡れるから」




『何のために海に来たの』




呆れたようにそう言う。
僕は行きたいなんて言ってない。と口の中でぼやいた。



と、彼女が僕の手をぐいと引っ張った。




「ちょ…」




『ほら。気持ちいいでしょ?』



強制的に足が海に入る。冷たい。
足首が濡れて、ズボンが黒くなった。




文句を言おうと君を見る。
太陽に負けないくらい晴れやかな笑顔。
それを見たら、濡れるとかどうでも良くなった。




ていやっと足で水をかけてくる。
仕返しに僕も同じように水をかけ返す。
水がキラキラと光って、笑い声がこだまして、弾けた。



































『人魚姫ってさ、どんな話だっけ』




「人間に恋をするけど、最後は泡になって消えちゃうんじゃなかったかな」




『そっか』




堤防に腰掛けて座る。
一人分空いたスペースがやけに虚しかった。




どうしたの。とは聞かない。
いつもの気まぐれだろうから。




いつの間にか太陽が向こう側に沈みかけていて、僕達の服はびしょ濡れだった。
生暖かい風が僕たちの間を抜けた。





『夏も終わるね』




「そうだね」




『ねぇ』




隣を向くと、ビー玉のような真っ黒な目が僕を覗き込んでいた。




『私たち、いつも一緒だよね』




彼女は僕しか見ていない。
それが嬉しいような、不思議なような。




『でも、ずっと一緒にはいられない』




彼女の目に映る僕が見えた。




『君はきっと、全てを知っても』




波の音が消えた。




『私の傍にいたいと思うだろうから』




視界が黒くなった。




『解放するよ』




彼女に手で目を覆われたのだと理解するのに、少し時間がかかった。




何を言っているの。
その言葉は、声にならなかった。



フウ
『ばいばい。諷』




彼女が言い終わると同時に、頭に鈍い痛みが走る。
身体が揺れて、空が映った。




瞼が落ちようとした時、彼女が泣いているような気がした。




セナ
汐夏。
呼びかけた僕の声は、届かなかった。




















































「人魚姫は泡になって消えてしまいました…か」




隣で寝息を立てている彼の頬をそっと撫でる。
ポツリと落ちた雫を親指で拭った。




「伝説じゃあなかったのね」




ゆっくりと立ち上がり、靴を脱ぎ捨てる。
脱ぎ捨てた靴の片方が、堤防から転げ落ちた。




堤防から降り、海に向かって歩く。
砂浜に足跡が付いてくる。




乾きかかっていた服が、海の水を含んでまた濡れていく。
足を止めずにそのまま歩いていく。
腰の辺りまで浸かった時、一度だけ後ろを振り向いた。




愛しい彼が横たわっているのを目にして




『ごめんね』




小さくそう呟いた時、大きな波が彼女を飲み込んだ。





















































「…ん」




ゆっくりと体を起こす。
気がつくと、堤防の上で寝ていた。




「…なんでここに」




辺りを見渡すと、堤防の上には靴が片方。
その片割れは、堤防の下に転がっていた。




顔をしかめる。
これは誰のだ。
思い出そうとしても、思い出せない。
何も分からない。




靴を手に取った。
どうやら女の子の物らしい。
と、靴の中から何かが光って落ちた。
手を伸ばして拾う。




「鱗…?」




諷。
自分の名前が呼ばれた気がして、海を見る。
そこには誰も何もなくて、ただ波が身を寄せては離れてを繰り返していた。




































『人間に恋をした人魚姫は』




『泡になって消えてしまいました』

榊 夜綴・2021-05-13
題名がお気に入り
内容はありきたり
この写真出すために頑張って動画見たよ((
感想欲しい
完全なる思いつきです
小説
海の味を知っている
片思い
両思い
別れ
ポエム
独り言
秘密の愛言葉
まだ見ぬ世界の空の色は





きっと僕は、出会った時から




君の音に恋をしていたんだ。

























〈君の音〉































二十二時。




閑静な住宅街。




音なんてほとんど聞こえない道を




白い息を他揺らせながら歩く。




時々ジジ…と音がして




道路を照らしている照明が瞬きをした。




中学三年の冬。




中学校生活の中で1番忙しい時期。




学年の半分が塾に行かされ




目標に向かって勉強する。




僕も例外ではなく




今日も塾の帰りだった。




寒い。と呟いても、




聞いているのは月だけ。




お前は寒いとか感じるのかよ。




と、半場やけになって愚痴った。




ふと、足を止めた。




何かが聞こえた。




話し声とか悲鳴とか




そういうのじゃなくて。




歌の、ような。




すぐ近くに神社があり




そこから聞こえたようだった。




鳥居を潜り、奥へと進む。




段々と近付くにつれ




それが歌だと分かった。




神社の本堂の裏へと周り




そっと顔を出した。




一人の女の子が、歌を歌っていた。




境内に腰掛けて、ギターを弾いて。




とても綺麗な声で。




こんな時間に神社で。




どう考えても普通ではないのに




何も違和感を感じなかったのは




彼女の声がとても綺麗だったからだろうか。




綺麗で、儚くて。




でもどこか優しい。




そんな声だった。




覗き見をしていることも忘れて、




僕はその場で聴き入っていた。




『覗き見なんて良くないよ』




急に声をかけられる。




いつの間にか




彼女の演奏は終わっていたようだ。




彼女はくるりとこちらを向いて




『こっち来て』




自分の隣をポンポンと叩いた。




いつから気付いていたの。




とか、




なんでこんな所で。




とか。





聞きたいことは色々あったけど




とりあえず言われるがままに腰を下ろした。




『どうだった?』




何が。




と聞かなくても分かる。




「良かったよ」




『そっか』




『じゃあ、もう一曲聴いてよ』




二つ返事で了承すると




彼女の指はまた弦の上で踊り始めた。




曲が流れ、音楽を紡いでいく。




彼女の声も加わる。




今まで聴いたどんな曲よりも、




綺麗だと思った。




「凄いね」




『ありがとう』




在り来りな感想しか言えない僕に




彼女は嬉しそうに笑った。




その笑顔は




歌に負けないくらい綺麗だった。




それから僕は毎日彼女の元へ通った。




塾終わりに神社に寄り、




彼女の歌を聴く。




それが日課と化していた。




彼女の歌は




勉強疲れの僕の心を癒した。




専ら僕は聴く専門で、




歌ったりはしなかった。




彼女の歌の邪魔をしたくなかった。




彼女の歌に僕が入ってはいけない気がした。




『今日はね、こないだCMで聞いたやつ。




きっと君も気に入ると思うよ』




『これ友達のおすすめなんだって。




私は聴いたことないんだけどね』




彼女が歌う歌は




ほとんどがCMか何かで聴いたことがある曲か、




おすすめされたものだった。




聞くと一回聴いたことがある曲は弾くことが出来るらしい。




才能と言うやつか。




テレビでそんな人を見た事はあるが




実際会うのは初めてで感動した。







そんな彼女がたまに




CMでも聴いたことがないものを歌うことがあった。




「この曲、聴いたことないけど、なに?」




『これね。私が作ったんだ』




内緒だよ。




そう言い照れくさそうに人差し指を唇に当てた彼女は




とても可愛らしかった。




お互いに名前など教えていない。




約束もせずに会い




歌を歌い、聴く。




それだけの関係。




それだけなのに




彼女は僕の中でとても大きな存在となった。











































『今日はこれを聴いて欲しいの』




珍しく雨の降る日だった。




いつも通り彼女の言葉から始まった




二人だけの演奏会。




いつもは一曲終えると次の曲を弾くのに




今日の彼女は違った。




同じ曲をずっと弾いた。




「ねぇ、またこれなの?」




『今日はこれを聴いて』




何回も。




何回も。




その曲を聴いた。




その歌声はいつもより




哀愁に満ちているような気がした。




『覚えた?』




何回目か数えるのも忘れた頃




彼女はそう言った。




「何を?」




『歌詞』




「覚えたよ」




何回も聴かされたその曲は、




もう僕の耳に住み着いていた。




一人でも口ずさめるほどに。




『そっか』




僕の返事を聞いた彼女は




『じゃあ、今日はもう終わり。帰ろう』




そう言った。




「なんで?」




『雨強くなってきたから』




「まだ大丈夫だよ」




『だめ。帰ろう。風邪引いたら困るよ』




「…わかった」




きっと聞き入れて貰えない。




そう思い、神社を後にした。




彼女の様子がおかしかったと感じたのは




家に帰ってからだった。







































次の日神社に行くと、




彼女はいなかった。




一時間待っても




彼女が来ることは無かった。




次の日も




その次の日も。




それから




彼女が来ることは二度となかった。




















































彼女が来なくなってから




僕は彼女が最後に歌っていた歌を紙に書き出すことにした。




忘れることは恐らくない。




でも、不安だった。




だから、忘れないように。




彼女の歌を。




彼女と僕の思い出を。




軽くその歌を口ずさみながら




紙の上でペンを走らせていく。




全ての歌詞を書き出し




あの時のように歌った。




今は彼女はいなくて、僕だけの演奏会。




なんだか酷く虚しかった。




ふと、紙の上の歌詞を眺めて




何か違和感を感じた。




考えて、その違和感に気づいた時。




僕の目から涙が止まらなくなった。




拭っても拭っても溢れてくる。




口の中から嗚咽が漏れる。




あの時




彼女がこの歌しか歌わなかった理由。




僕を早く帰した理由。




歌う時にいつも




何処か悲しそうだった理由。




全てが繋がった。




綺麗でかっこよくて。




でも何処か儚い君らしい。




なぁ、聴こえてる。




僕は今でも君の歌を歌ってる。




恐らく君が僕に宛てた




最初で最期の歌を。




今更だけど。




言葉足らずかもしれないけど。




きっと僕は、出会った時から




君の音に恋をしていたんだ。




彼女の歌の冒頭の頭文字を繋げて




震える声で読み上げた。




































「びょうきだけどしあわせだった」




「ありがとう」

榊 夜綴・2021-02-27
人物にあえて名前を付けないで描いてみた
いつもは左端に寄ったフォント使うけど今回は真ん中
なぜならそういう気分だったから((
君の音
小説
出会い
別れ
大切な人
病気
会いたい
ポエム
独り言
寂しい理由
まだ見ぬ世界の空の色は



〈「今日は、記念日だから」〉














『ワイン、買ってきてくれた?』




「あぁ」




『あ、これ』




「そう。いつもより高いやつ」




「今日くらいはいいだろ?」




『えぇ。ありがとう』




「それから、これ」




『まぁ…綺麗な花束』




『薔薇の花ね』




「99本あるんだ」




「薔薇の花99本の花言葉は」




「『永遠の愛』」




「永遠に愛してるよ」




『ふふ。私もよ、あなた』




「それじゃあ」




『ええ』




「僕の」




『貴方の』




「『死んでから1年記念日に、乾杯』」

榊 夜綴・2021-09-05
また意味深小説になってしまった
こういうの好きなんだよね
感想欲しいです
小説
「今日は、記念日だから」
別れ
大切な人
ポエム
独り言
夏祭り
まだ見ぬ世界の空の色は


〈打ち上げ花火があがる時〉






ドンドンチャン...トントコトントン


ピーヒャララー


お祭りのお囃子(ハヤシ)の音が聞こえる。


カラカラと音を立てながら色とりどりな鮮やかな浴衣が目の前を通り過ぎていく。


焼き鳥や焼きそばなどの香りがほのかに鼻をくすぐる。


夕暮れ色に染まった空に薄暗い色のフィルターがかかり、そこに提灯の明かりが灯っているのがなんとも綺麗だ。



「遅いなぁ...」



待ち合わせ場所で待ちながらポツリと口に出した。


時間はそろそろだというのに...


先に何か買って食べてしまおうか。そんな衝動に駆られる。こっちはこの時のために今日はお昼ご飯食べてないんだぞ。餓死させる気か。


髪型、崩れてないだろうか。折角浴衣を着て髪もいじってきたのに崩れていてしまっては困る。


鏡を取り出し確認してみる。大丈夫そうだ。ほっとして鏡をしまった。


浴衣を来ている人達はみんな屋台へ向かって歩いて行く。こんな所で待っているのは私だけな気がしてきた。周りの人に見られているようにがしてきて少し気恥ずかしい。


スマホを弄りながら待つ。


と、目の前がふいに影った。ようやく来たか。



「遅いよ。どれだけ待ったと...」


『お姉さん可愛いねー!今1人?』



目の前には金髪にピアスをしたいかにもチャラそうな外見の男が立っていた。


全然知らない人だ。



『1人ならさ、俺と祭り一緒に行かない?』


「待ち合わせてるので」


『いいじゃんいいじゃん、ちょっとだけ!ね??』



しつこい男にイラッとする。断ってんじゃねーか。口には出さないが心の中で悪態をつく。



「ほんとに結構です」


『大丈夫大丈夫!ちょっとだけだから待ち合わせてる人も許してくれるよ!ね、行こ!!』


「ちょっ」



ぐいっと手を引っ張られて転びそうになる。


慌てて手に力を入れて引き止めた。



「離してください...っ」


『いいじゃんいいじゃん、ね?』



振り払おうにも力が強くて振り払えない。力強いな!



『彼女は僕の連れですが...何か?』



そんな言葉と共に目の前に人が割って入って来る。


私に背を向けて立つ。そのままぐっと男の手を掴んだ。



『痛たたたたたた!!痛い!!離せよ...っ』



男が悲鳴をあげる。その言葉にぱっと手を離す。



『くそっ男連れかよ!!』



男は悪態を付きながら去っていった。



「ばーか!あんたみたいな男には誰も付いてかないっつーの!!」



去っていく男の背中に思いっきり舌を出した。



『小夜(サヨ)...大丈夫?』


「うん。ありがとう、翠(スイ)」


『手...痛くない?』


「へーきへーき。それより遅かったじゃん」


『ごめん...ちょっと支度に手間取っちゃって...』


「もー」


『小夜、浴衣...似合ってる』


「ありがとう」



その言葉に思わず微笑む。


幼馴染の翠。今日は一緒に夏祭りに行く約束をしていた。ここの夏祭りに来るのは、毎年恒例だ。


支度を手間取ったからか翠も浴衣が良く似合っている。淡い青色だ。静かな翠のイメージに良くあっている。


そのせいで変な男に絡まれた訳だが、まぁそれは良いとしよう。



『小夜、去年も知らない人に声かけられてた...』


「あ、確かにそうだったかも」


『はぁ...』



ため息をつく翠を横目で見る。



「なに?」


『いや...別に...』


「それより早く行こっ。もうお腹空いちゃって」


『うん。買いに行こう』



人混みを縫いながら2人で屋台を見てまわる。



「あ、りんご飴!」 


『買う?』


「うん!ちょっと待ってて」


『いいよ。一緒に行く』



りんご飴の屋台に2人で並んで買う。


ツヤツヤとした飴が沢山並んでいて綺麗だった。



「ふわぁぁぁ美味しそー!」


『小夜、貸して』


「ん?はい」



翠にりんご飴を渡す。と、そのままりんご飴をこちらに差し出される。



『ほら...食べて』


「自分で食べれるよ?」


『...いいから』


「はーい」



赤いりんご飴を頬張る。飴の甘さとりんごの酸っぱさが口に広がる。



「ん~~!!」


『美味しい?』



口に飴が入っているのでコクコクと頷く。翠にはそれで伝わったようで



『良かった』



と微笑んだ。



「ね、他にも買お!翠が欲しいのも!!」


『僕あんまりお腹空いてないんだけど...』


「えぇ!!お祭りなんだから空かせて来なよー」


『そんなことしないよ...』


「私はお昼ご飯食べてないもん」


『...それは小夜だけだよ』



そんなことを言い合いながら屋台を見てまわる。


チョコバナナ、焼きそば、焼き鳥。ねり飴、かき氷。


あっという間に手が食べ物でいっぱいになる。



「よし、これだけ買えば大丈夫でしょ」


『...これ...買いすぎなんじゃ...』


「だーいじょぶだいじょぶ!そろそろ花火始まるから場所取ろ!!」


『うん。河川敷行こうか』



河川敷にはもう人がいっぱいで、場所を探すのが一苦労だった。


ようやく場所を見つけて並んで座る。



「場所あって良かったー。座って見れて良かったよ」


『...だね』


「そろそろ始まるかな?」



ヒューと音がして花火があがる。ドーンという音と共に花が開いた。周りの人が歓声をあげる。



「おおー!始まった!!」


『ほんとだ...』



次々に花火があがる。空が色付いていく。



「綺麗だねぇ」


『...だね』



しばらく黙って花火を眺めた。


あがっては消えていく花火から目が離せなかった。



「来年もまた見に来ようね。こうやって」



隣にいる翠にそう話しかける。きっと翠なら『うん』って言ってくれる。そう思った。



『...やだ』



が、聞こえたのは思ったのと違う返事だった。


思わず横を見る。



「え...もう、見たくない?私と、花火...」


『違う...違うんだ。そうじゃ、なくて』



一呼吸置いて、翠が私の目を見る。吸い込まれそうなほど真っ直ぐに。



『来年は、小夜の彼氏として...小夜の隣で、花火を見たい...』



目を見つめたまま固まる。


1番大きな花火が、頭上で弾けた。

榊 夜綴・2020-08-09
打ち上げ花火があがる時
夏祭り行きたかったよこんちくしょー
コロナめ...
遅れて大変申し訳ございません(土下座)
下手だけど許して((テヘペロ☆←散れ
情景描写の描の字もない
れおたんリクエスト(一応)
ごめんよれおたん(´・ω・`)
許して()
小説
花火
打ち上げ花火
夏祭り
屋台
告白
幼なじみ
ポエム
独り言
もしも私が魔法使いなら
まだ見ぬ世界の空の色は




〈七夕は男子高校生にとっても楽しみなんですよ〉









『先輩は何にするんですか?』




「なにが?」




『七夕の願い事です』




パチパチとホチキスの音が教室に響く。




手を止めることはなく、目線も手元のまま。




家で飼ってる猫が可愛かったんですよね。




そんなことを言うように、目の前の後輩は言った。











放課後担任に資料作りを頼まれ、やることもないので引き受けた。




のだが、受け取った量がとてもとても一クラスの量ではなくて。
抗議したところ『学年分あるけどまぁ大丈夫だろ』と軽く流された。




学年って何人いるのか知ってるのか?
頭のその少ない毛むしるぞ。




とあまりにも品がない言葉を言いかけたのを飲み込み、教室で一人作業をしていた所に現れたのがこの後輩。




私を見て、資料を見て、手伝いますよ。と笑った。










あぁ、そういや今日七夕か。




なんて、女子らしくもないことを思う。




「七夕なの忘れてたよ」




『まじですか』




私の返事を聞いて、顔を上げた。




呆れたような、おかしいような。
そんな顔をして少し微笑む。




マスク越しなのに、表情が良く見て取れた。




ねぇ。




どんな気持ちで私に笑いかけてるの。




「そっちはどうするの?」




『え?』




「願い事」




今度は私が作業を止めずに聞く。




生ぬるい風が傍を通った。




『まだ決めてないです』




「そっか」




資料はようやく三分の一を終えた所だった。




ホチキスの音と、紙が擦れる音が二人の世界を包む。




「七夕の願い事ってなんでもいいのかね」




『いいんじゃないですか?多分』




「そっか」




『決めたんですか?』




「んー。まぁ」




曖昧に濁すとキョトンとした顔をする。




リスか?と言いたくなる。
私より目がきゅるっきゅるだ。




「なに?」




『いえ、曖昧だったので。どうしたのかなと』




「なんでもないよー」




「それより君は決めたの?」




『そうですねぇ』




ここで作業を初めて止めた。
うーんと考え込む後輩。




月明かりが妙に様になっていて、なんだかそれが悔しかった。




「…ずるいな」




『え?』




「いや、別に」




首を振って質問の答えを促す。




後輩は微笑んで私を見た。




「…なに?」




『なんだと思います?僕の願い事』




「いやわかんないけど」




『即答しないでくださいよ』




だって分からないものは分からない。




人の心を読めるのなんて宇宙人くらいだ。




じっと目を見て抗議する。




後輩はにこにことこちらを見ているだけだ。




効果、なし。




諦めて考えることにする。




教室の音は時計の長針の音だけになった。




まるで世界に二人きりみたいな。




そんな錯覚を覚える。




「テストでいい点取れますように」




『違います』




笑顔のまま告げられる。
心做しかその笑顔も暗黒微笑に見える。怖い。




その後思いつく限りの願い事を言うも、彼の暗黒微笑が天使の微笑みになることは無かった。




「…嘘ついてないよね?」




『ついてませんよ』




「えぇ…わかんないんだけど」




『じゃ、答え合わせしましょうか』




そう言い席を立ち、教卓から画用紙とはさみを持ってくる。




「そんなのあったんだ」




『あったみたいです。よかった』




なかったらどうするつもりだったのだろう。
他の教室から借りた?
この後輩ならやりかねないなと少し笑う。




そんな私の考えなぞ露知らず、チョキチョキと丁寧に紙を切り取っていく。




一分もせずに赤い画用紙が願い事を届ける紙に変化した。




そして落し物コーナーから鉛筆を取り出し、何か書き込んでいく。




覗き込もうとすると隠された。




『先輩は見ちゃダメです』




「え、なんで」




『なんでもです』




なんだそりゃ。
呆れて後輩を見る。




後で見せますから。
そう言いまた作業を始めたので、資料作りに戻った。














『…よし』




小さな声が聞こえて、顔を上げると満足気な後輩の顔。




『これが僕の願いです』




はい。と渡される紙を受け取る。




『先輩の彦星になれますように』




そう書いてあった。




「は?」




思わず後輩の顔を凝視する。




よっぽど変な顔をしていたのか、後輩はふはっと吹き出した。




『先輩、驚きすぎじゃないですか?』




「そりゃこんなんみたら驚くでしょうよ。なにこれ」




『これが僕の気持ちですよ』




「…なに、それ」




『先輩』




椅子からまた立ち上がり、今度は私が座ってる椅子の前に跪く。




そっと私の手に触れて、優しく包み込んだ。




『僕の織姫になってくれますか?』




まっすぐに見つめられて、目が離せない。




彦星って言うより、一番星みたいだ。




目の前のこいつを見て、そう思った。











































『はーー…よかったです、ほんと…』




「なにが?」




『断られたら立ち直れませんでしたよ…』




「そんなに緊張してたの?」




『そりゃしますよ。僕のことなんだと思ってたんですか?』




「いや、緊張してるようには見えなかったから」




『えぇ…』




「てか、七夕知ってたんだね。なんか意外だったよ」




『あれ、先輩知りませんでした?』




『七夕は男子高校生にとっても楽しみなんですよ』










































教室の隅に置かれた笹。




その笹の中にある色とりどりの願い事。




赤い紙が二つ、仲良く寄り添って揺れていた。




『先輩の彦星になれますように』




『後輩の織姫になりました』

榊 夜綴・2021-07-07
制作時間40分
このクオリティよ
どした?ほんと
語彙力の欠如
ほんとは失恋にしようと思ってたけど諦めた
小説
七夕は男子高校生にとっても楽しみなんですよ
七夕
青春
告白
両思い
ポエム
独り言
七夕の願い事
夏恋
まだ見ぬ世界の空の色は






俺が愛し愛されたのは




半透明の少女でした。













































〈俺は幽霊に愛されている〉
















































あいつに再会したのは、春も終わり梅雨になろうとしていた日だった。




ジメジメとした空気と、雨の日独特の匂い。




重たいカバンに大量の教科書やら参考書やらを詰め込んで、学校からの帰り道を歩いていた。




気分が下がりそうになる中、空色と真反対な青の花を広げた。
くるくると肩で回す。
水滴が勢い良く飛んで行った。




スニーカーが水たまりを踏んで、じわりと中に染みた。




ぼんやりとした頭で歩みを進める。
気が付くと、公園の前にいた。




また来てしまった。
ため息を一つ。
ここまで来てしまったらもう引き返すのもめんどくさい。
公園へと足を踏み入れた。





































シトシト、シトシト。
雨の音楽祭の中、一人で歩く。




よくあいつとここに来たっけな。
雨なのに、『雨の方が風情があるでしょ』って言って。
晴れの日に来た方が少ないんじゃないか。




思い出しながらさらに歩く。
しばらく行くと、紫陽花が沢山咲いている所に来た。




ここだったな。
始まったのも、終わったのも。



ヒロ
『燈路』




雨の音が消えた。




ずっと聞きたいと願っていた。
もう聞けないと思っていた。




誰より愛おしい声。
聞きたくてやまなかった声。




ゆっくりと振り返った。




「…双葉」




『燈路』




あいつがいた。
真っ白のワンピースを着て、長い髪の毛を揺らして。
変わらぬ笑顔でそこに居た。



一つ変わった所があると言えば、身体が少し透けている所だろうか。




まぁ、それも当然か。





「なんで」




『燈路に会いに来ちゃった』




あぁ。双葉だ。




笑う時に少し首を傾けるのも。
照れた時にはにかむのも。
何も変わらない。




抱きしめそうになる。
触れたくなる。




「なんでいるんだよ」




『だから、燈路に会いに来たんだよ』




頼むから。
頼むからやめてくれ。
これ以上、俺を。




「何言ってんだよ」




ダメにしないでくれ。




『燈路は、会いたくなかった?』




そんなわけない。
あるわけがない。




ずっとずっと会いたかった。




あの日からずっと。




「双葉」




『なぁに』




「なんでいるんだよ」




傘を持つ手が震える。




「お前はもう」




それは、寒さのせいなんかじゃない。




「死んだのに」




パーンと音を立てて車が近くを走り去って行った。
水しぶきが二人の間を襲う。




双葉は悲しそうな、怒ったような。
何とも言えない顔をしていた。




『燈路が』




双葉は表情を変えないまま、苦しげに呟いた。




『燈路が苦しんでるんじゃないかと思って』




なんでわかんだよ。
お前にはいつも隠せない。




『燈路』




「…なんだよ」




『自分を責めないでね』




びくりと肩が震えた。
それは今、俺が一番欲しかった言葉で。




『あの時から、燈路はずっと自分を責めてる』




「…双葉が死んだのは、俺のせいだろ」




『違うよ』




「違くねーよ!俺がお前に会いたいなんて言わなきゃ、お前はここでストーカーに殺されることもなかった!!」




『燈路…』




さっきよりも苦しそうな目。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
俺はいつも、苦しめてばかりだ。




『燈路。聞いて』




双葉がこちらに歩み寄ってくる。




『私は私が燈路に会いたかったから燈路の家に行こうとしたの』




一歩ずつ、少しずつ。




『あの時この公園も通ったのも、私の意思』




双葉は俺の目の前で立ち止まった。




『燈路のせいじゃないよ』




そっと頬を撫でられる。
手は、少し冷たかった。



頬にある手に自分の手を重ねる。
双葉は嬉しそうに微笑んだ。




『他になにか悩んでいることは?』




「…模試の成績が」




『悪かった?』




コクリと頷く。
双葉は俺の目を見て




『燈路の頑張りは報われる時が来るよ』




『そのカバンの中、参考書でしょ?』




ほんと、なんで分かるんだよ。




『目もクマ出来てるし、遅くまで勉強してるんでしょ』




『なら、大丈夫。大丈夫だよ』




確信のない大丈夫。
それなのに、双葉が言うと。
心から安心できるんだ。




「おう。ありがと」




『どういたしまして』




「俺、双葉に言わなきゃいけねーことある」




『なに?』




「進路変えた。医者になるわ」




目を見開く双葉。
言葉が出ないらしく、口をパクパクさせている。
その顔に思わず吹き出した。




『何笑ってんの!』




「いや、金魚みてぇだなと思って」




『だって燈路が…!燈路、文系でしょ?なんでまた急に…』





「双葉の夢だったろ。医者」




『…え』




「だからなろうと思って」



そう言うと双葉はポロポロと涙を流した。
泣いている所も綺麗だ。
なんて、そんなことを思った。




『燈路のばかぁぁぁ』




「え、酷くね?」




双葉の頬に手をあてて流れる涙を拭う。




『患者さんには優しく接するんだよ』




「分かってるよ」




『燈路子供に泣かれないか心配だよ』




「どういう意味だよ」




お互いに目を見合って笑いあった。
またこんな日が来ることを夢見てた。
あぁ、幸せだ。




『そろそろいかなきゃ』




その言葉に身体が強ばる。
触れた手からそれが伝わったのか、双葉は俺の胸元に顔を埋めた。




お互いにキツく抱きしめ合う。
この温もりに触れることは、きっともう出来ないから。




「双葉」




名前を呼ぶと、顔を上げた。
少しかがみ込んで、顔を傘で隠して。




そっと唇に触れた。




久しぶりのキスは、少ししょっぱかった。




名残惜しくも唇を離して。
また抱きしめる。




『見守ってるからね』




「知ってる」




『あんま早く来ちゃだめだよ』




「分かってる」




『燈路』




耳元で名前を呼ばれる。




きっと、これが最後。
今までにないくらいキツく抱きしめた。




『またね』




その言葉と共に、手の中の温もりがなくなった。




そっと手を解く。
俺の腕の中には、誰もいなかった。




いつの間にか雨は上がっていて。




「またな」




空には虹がかかっていた。

榊 夜綴・2021-06-06
これも題名お気に入り
これまた設定分かりづらくてすみません
登場人物の名前が段々ありきたりになっていってる気がする
小説
俺は幽霊に愛されている
梅雨
紫陽花
別れ
両思い
ポエム
独り言
私を見つけて
まだ見ぬ世界の空の色は





〈「「あのね、」」〉
~もう1人の話~















「なんであんたは生きてるの」




それが母の口癖だった。




母は酒をよく飲む人だった。




そして酒に吞まれる人だった。




父はそんな母に呆れ




女を作り出ていき




大きい家と大金だけが残った。




父が稼いでくれたお金で




生活に困ることは無かったが




母はそんな父を想い




さらに酒に呑まれた。




リビングのソファで蹲り




ただ酒を飲み




1日の大半をそこで過ごす。




たまに起き出したと思えば




行きようのない思いを




恨みとして僕に返してくる。




「なんであんたなんか産んだの!」




「あんたがいなければ」




「あの人は出ていかなかったのに!」




「なんであんたは生きてるの」




「あんたなんか消えればいいのよ!」




父が出ていったのが




僕のせいではないことは




僕自身も分かっていたし




母もきっと気付いていた。




ただ、どうしていいか分からないのだ。




認めたくないのだろう。




父がいなくなったのが自分のせいだと。




だから目の前に僕に当たるのだろう。




本当に可哀想な人だ。




元の優しい母に




父がいた時の母に




戻ってくれるだろうと思っていた。




戻って欲しかった。




その一心で




罵声と暴力にひたすらに耐えた。




そんな日々が始まって




気付けば4年が経っていた。
























































ある日、母が男を連れてきた。




母より若くてチャラい男だった。




派手な髪色にスーツを身につけ




吐き気がするような甘い言葉を囁く。




きっとホストか何かだろう。




父を失った寂しさから




母はホストクラブにのめり込み




残された金を使いまくっていた。




心の傷を癒して欲しかったのだろう。




ろくでもないのに引っかかったなと




同情した。




その男はやめときなよ。なんて




言ったところで聞く耳を持ってはくれないし




罵声が飛んでくるだけだから言わなかった。




そして予想通り。




最初は甘い顔をしていた男も




次第に母に金をせびるようになった。




捨てられたくない。




その一心で、母は男に金を与え続けた。




男からしたら良い金づるだろう。




荒んだ精神状態で働きに出られるはずもなく




家の金は湯水のようにどんどん減っていった。




そして金を与えられなくなった母は




男に捨てられた。




母は昼夜問わず狂ったように泣き




男が来てからは飲まなくなった酒を




また飲み始めた。




それからはまた同じ日々の繰り返し。




罵声と暴力に耐える日々。




ただの地獄だった。



















































男に捨てられてから数週間経ち




母は心が壊れたようだった。




最愛の夫には逃げられ




新しい恋人には金を巻き上げられ捨てられて。




そりゃそうなるよなと思う。




生きているのが辛くなったのか




母は自宅で首を吊って




自ら命を絶った。




ある朝目が覚めると何の気配もしなくて




不思議に思ってリビングを覗くと




母が天井から吊り下がっていた。




手には父がいた頃の家族写真。




ずっとずっと父を忘れられなかった母。




捨てられても心が壊れても




想い続けた母。




純愛と言うべきなのだろうか。




こうはなりたくないが。




1人だけになった家は




酷く静かで




今まで罵声が響いていたのに慣れたせいか




なんだか居心地が悪かった。




悲しみはない。




可哀想な人。




それだけだ。




母をそのままに、家を漁る。




引き出しを開けると、タバコとライター。




母は吸わないから父のだろう。




「体に毒だから吸うなよ」




そう言っていたいつかの記憶を思い出す。




1本取りだし、火をつけた。




シュボッと言う音が部屋に響く。




煙を吸って、吐いた。




細くたなびく白い煙が、天井に消える。




「不味い」




警察に電話し




母が死んでいる旨を伝え




警察が来る前に




タバコとライターだけ持って家を出た。




















































































行くあてもなく歩くと




周りの景色から建物が少なくなっていき




代わりに木々が増えてきた。




すると見つけたのは




木々の中にぽつんと建つ洋館だった。




レンガ造りの立派な3階建てだが




広い庭は雑草だらけで




唯一ある遊具のブランコも錆びていた。




玄関が開いていたので中に入り、探索する。




リビング、寝室、キッチン、トイレ、風呂。




一通り見たが誰もいないらしく




外見からは気付かなかったが




かなりのボロ屋だった。




ここなら誰も来ないだろうと




ここを家にすることにした。




リビングのソファでタバコを吸っていると




雨が降ってきた。




かなりの大粒らしく、大きな音が部屋に響く。




雨漏りしないかとヒヤヒヤしていると




玄関から誰かが入ってきた。




とっさにソファの影に隠れる。




その人物は廊下を軋ませながら歩き




リビングに来ることなく




玄関のすぐ横の階段を上り2階に消えていった。




後を追うとその人物はベランダにたたずんでいた。




後ろ姿で女の子だとわかった。




声をかけても驚くことはなく




ただぼんやりとしていて




その目は僕じゃない何処か遠くを見ていた。




何をしてるのかと聞いたら




「雨宿り」と言う。




制服は血塗れで腰まである髪はボサボサ。




それで雨宿りは嘘だろと直ぐにわかったが




彼女は聞かれたくなさそうなので言わなかった。




住居不法侵入を訴えると




彼女は僕がタバコを吸っていることを指摘してきた。




成人してるようには見えないらしい。




数回吸うと、タバコを吸うのにも慣れてきた。




相変わらず美味しくはない。




「戻るのかい?」




「何処に?」




「君の居場所にだよ」




「戻れないし、戻りたくもないわ」




「だろうね」




その風貌からして




彼女は自ら自分の居場所を壊してしまったのだろう。




僕と似てるな、と思った。




すると彼女は




「貴方は戻らないの?」




と聞く。




「言っただろ」




「ここが僕の家だって」




これからはここに住む。




死ぬまでそうするつもりだった。




やっと自由になれたのだから。




これで自分の好きなように生きれる。




そうしたかった。




すると




「それじゃ私もここに住もうかしら」




なんて言う。




驚いたが、楽しそうだと思った。




「そりゃいい。賑やかになる」




了承すると、




「本当にいいの?」




と聞いてくる。




そしてかわるがわる自分と自分の服装を指した。




こんな人物を置いていいのかということだろう。




事情は何となく察していた。




でも




「面白そうだからいいさ」




「変わった人ね」




「君もだろ」




心からの言葉だった。




こんな得体の知れない男のところに住みたいだなんて




どうかしている。




僕達はきっと、2人ともおかしい。




ふと彼女が軽く微笑む。




何処か妖艶で、怪しげな笑みだった。




気付けば口は勝手に開いていて




「ちょっと変なこと言ってもいいかい」




と言っていた。




何を言っているんだと自分でも思ったが




「奇遇ね。私も言おうとしてた」




彼女も同じことを思ったらしい。




考えることも同じであれと願いながら、告げる。




「「あのね、」」




「僕と付き合ってくれないか?」
「私と付き合ってくれない?」




やっぱり、僕達は似ている。

榊 夜綴・2021-09-26
小説
「「あのね、」」
出会い
家族
虐待
ポエム
独り言
花束を君に
まだ見ぬ世界の空の色は





〈少年B、飛ぶ〉




















『おはようございます。今朝のニュースをお伝えします』




『おはよう。クロ』




「おはよう。シロ」




『相変わらず酷い寝癖だ』




「君に言われたくはないかな。新聞取って」




『ん』




「動物園でパンダが産まれたらしいよシロ」




『おめでたいねぇクロ』




『天国では雨雲が広がり、3258年ぶりに血が降るでしょう』




「ねぇ、シロ。このパン焦げてる」




『それはごめんだよクロ』




『地獄では、5472年ぶりに晴れとなりそうです。焼死しないよう、日傘を忘れずにお持ちください』




『地獄が晴れるなんて』




「久しぶりだねぇ」




『続いて今朝のご臨終ニュースです』




「お」




『さて。今日は誰かな?』




「また政治関係者じゃないといいな。汚職事件には同情できない」




『クロ。静かに。ニュースが聞こえない』




『晴空街2丁目のBと言う少年が、昨夜亡くなりました』




『少年か』




「可哀想に。まだ若いのに」




『ほら。行くぞ。仕事だ』




「えぇ。まだご飯食べ終わってないのに」




『仕方ないだろ。神様に怒られたくない』




「ちぇ」




『ほら。天使の輪付けて。翼生やすの忘れるなよ』




「分かってる」




『じゃ、行くか』




「天使の仕事も楽じゃないね」

榊 夜綴・2021-07-21
伝わるかなーこれ
伝わんないかもな
描写がないセリフだけの小説初めて書いた
こういう不思議系の小説書いてみたかった
小説
少年B、飛ぶ
天使
天国
地獄
ポエム
独り言
夏休みにやりたいこと
まだ見ぬ世界の空の色は







〈朝の目覚めにコーヒーは良くない〉


































『愛が目に見えれば』




『人はきっともっと欲張りになる』




どこか達観したような表情でそう言う貴方は、もう5杯目のコーヒーを口に運んだ。
ちなみにブラック。
私にはとても飲めない。
ちびちびとマグカップの中のカフェオレの飲む。
私はまだ2杯目だ。




「好きの反対は無関心」




「なんて、よく言ったものね」




「好きの反対は嫌いでしょ」




『日本人は、言葉遊びが好きだからね』




だからそういうんだろう。と、貴方は続けた。




夜の街並みと貴方の大人びた横顔はよく映える。
夜のベランダは、朝とはまた別の景色を見せてくれる。




貴方を見る度に思う。
なんで同い年じゃないのだろう。
なんで私は貴方より遅く生まれたのだろう、と。




貴方と一緒にいたかった。
これからもずっと。




『もうこんな時間か』




その言葉に体が固まる。




一番恐れていた言葉。
一番言われたくなかった言葉。




貴方にその台詞を言わせないために、頑張って話し続けていたのに。




『そろそろ中に入ろう』




あぁ。
言われてしまった。
私と貴方の終わりの台詞を。




嫌よ。なんて。
言えるわけはない。




貴方のその顔を見てしまえば、従う以外にないの。




「そうね」




手の中のマグカップをぎゅっと握った。
いつの間にこんなにぬるくなったのだろう。




掠れた声が貴方に届かないようにと、強く願った。
































一緒の布団に入り、引っ付いて寝る。
貴方が離れないように、キツくキツく抱きしめた。
離さないから離れないで。
そう言うように。




『どうしたんだい。今日は甘えたさんかな?』




なんで私がこんななのか知ってるくせに、貴方はそう聞く。
ずるい人。




目が熱くなって、鼻がツンとする。
誤魔化すように顔をパジャマに押し付けた。




貴方はそれ以上何も言わずに私の頭をそっと撫でた。




































日の光で目が覚めた。




昨日あったはずの温もりは消えていて、現実を突きつけられた気持ちになる。




重たい足を引きずってリビングへと向かうと、机の上にラップにかかった朝ごはんが置いてあった。
用意していってくれていたらしい。




前までだったら頬が緩んでいたところだけど、今では胸を苦しめる材料にしかならない。




テレビを付けて、ラップのかかった朝ごはんを片手にキッチンへと向かった。




電子レンジの中でスポットライトを浴びてくるくるとご飯が回る。
それをぼんやりと眺めていた。




『ここで緊急ニュースです』




初めて見た顔のアナウンサーが少し甲高い声で緊急を告げた。
朝からこの声は堪えるからやめて欲しい。




『刑務所から脱走し、行方を捜索中だった、』




お気に入りのマグカップにコーヒーを注ぐ。



カイドウヒュウガ
『快堂彪牙容疑者が、警察署に出頭しました』




ミルクも入れずに一口、口に含む。




『警察は、快堂容疑者を匿った人物がいないかなど捜査を進めると言うことで_』




パッと容疑者の顔が映し出される。




真っ直ぐ目を見つめて




『やっぱり、苦いわ』




"貴方"にそう言った。

榊 夜綴・2021-05-27
写真どうしようか悩んでたらこれ見つけて「これだ!!」ってなった
いや、これ、内容伝わる?
伝わらなかったらごめんなさい
分からなかったら言ってください解説します
個人的には割とお気に入りの話です
呪術廻戦の台詞を少し引用してます
こういう感じの小説は初めてな気がする
小説
朝の目覚めにコーヒーは良くない
別れ
辛い
苦しい
ポエム
独り言
愛する人へのラブレター
まだ見ぬ世界の空の色は



〈新婦は新郎の名を知らない〉

















「すごくかっこいい」




そう言って微笑む貴女。




貴女も素晴らしいよ。




「美しい」なんて言葉じゃ足りないくらいに。




そっと歩み寄ってくる彼女が私の頬を撫でる。




少し涙ぐんじゃってさ。
僕まで泣きそうになるじゃないか。




「失礼します。そろそろお時間です」




ノックと共に係の人が入ってくる。




「分かりました」




彼女が一礼して出ていくと名残惜しそうに離れる。




「じゃあ、先に行っているわね」




「あぁ」




ドアが閉まる音と共に静寂が部屋に訪れて。




思わず口が弧を描いた。


















































「新婦の入場です」




招待客が皆後ろを振り返る。




それを待ってましたというようにギィーと音を立てながらドアが開く。




皆の視線の先には彼女。




先程と同じ格好のはずなのに、ベールを被っているからだろうか。




神々しくて目を合わせられない。




ゆっくりとこちらに歩んで来る度に僕は浄化されていくようだ。




僕の隣まで来ると、腕を組んで一緒に歩んできたお義父さんの手をそっと離した。




チラリとお義父さんの方を見て小さく頷く。
お義父さんも頷き返した。




お義父さんはそのまま背を向けゆっくりと元来た道を引き返していく。




去り際一瞬彼女を見たお義父さんの目。




あんなに慈愛に満ちたお義父さんの目は初めて見た。




隣の彼女と目を合わせて微笑み、神父に向き合う。




僕たちの顔を代わる代わる見た後、一呼吸置いて神父は言った。



ナナホシミツル
「新郎、七星 充は」



ホシウミ スズハ
「新婦、星海 涼葉を妻とし」




「病める時も健やかなる時も」




「永遠に愛すと誓いますか?」




「はい。誓います」











































「ねぇ、本当に今するの?」




「お母さん…何回も聞かないでよ」




「だって…」




「心配してくれてありがとう」




「でも私は大丈夫よ」




「それに、彼も望んでいるわ」




「…そう…」
































































「新婦、星海 涼葉は」




「新郎、七星 充を夫とし」




「病める時も健やかなる時も」




「永遠に愛すと誓いますか?」








































「それにしても残念だったわね…」




「交通事故だなんて…」




「…そうね」




「涼葉…」




「こんな時に結婚式だなんて、やっぱり時期が_」




「それ以上言わないで」




「…そうね…ごめんなさい」




「私まだ準備あるから、一人にしてくれる?」




「わかったわ」
























































「はい、誓います」




「それでは、誓いのキスを」







































「光さん、亡くなったんですって」




「お気の毒ね…」




「交通事故だったんでしょう?」




「ええ。充さんも一緒にいたそうよ」




「まぁ…」




「でもね、なんだか光さん、突き飛ばされたようにも見えたって」




「えぇ?」




「見間違えじゃないの?」




「そうよね。きっと、そうね」




「あの二人は、」














































そっと彼女のベールを脱がす。




ほんのりの染まった頬。
少し強ばった顔。




全てが愛おしい。




頬にそっと手を添え、ゆっくりと顔を近づけていく。




彼女が目を閉じ、僕も閉じた。
















































「双子の兄弟なんだから」






















































僕の所業をお前は許してくれるだろうか。




でももうお前は彼女を支えられない。




だからこれからは




僕が"七星 充"として、彼女を支えるよ。




許してくれるよな?




充。




大丈夫。
彼女への僕の愛は、お前に負けないほど強いから。




だから安心してくれよ。




好きな人が被らなきゃ、僕もお前の幸せを願ったさ。




最愛の兄よ。




どうか、安らかに。




































二人の唇が重なり、歓声が周りを包んだ。




照れ臭そうに笑う彼女を引き寄せて




もう一度唇にキスを落とした。

榊 夜綴・2022-04-29
うーん語彙力がない
小説
新婦は新郎の名を知らない
結婚式
結婚
独り言
目と目が合うと
まだ見ぬ世界の空の色は




コラボ小説 with沙織さん

〈オレンジ色の「好き」〉











好きな人に好きと伝えられることは




例えその想いが届かなかったとしても




とても幸せな事だと思う。
























朝学校に来て、自分の席から外を眺める。もうすぐ彼が来る時間だ。




「あ…」




1人の男子が校門から登校してくる。サラサラのストレートな黒髪。きっちり着こなした制服。すらっとした背。
そして極め付きは_




『また黒マスクだ。漣(サザナミ)っていつも黒マスクしてるよね』




「うわぁ!?」




『おはよう、舞衣(マイ)』




「凛(リン)…ちゃんか。びっくりしたぁ…おはよう」




『まーた漣眺めてんの?』



ひょこっと窓から外に顔を出して凛ちゃんが言う。




「うん」




『あんたも好きだねぇ』




半分呆れたように笑いながら言う。
神木(カミキ)凛ちゃん。茶髪の髪をボブヘアにした、サバサバした性格の女の子。私の親友だ。




「そりゃあ…好きだからね」




『あらあらお熱いことで』




「もーからかわないでよ」




『ごめんごめん』




笑いながら謝ったあと、そのまま呟くように言った。




『漣海斗(カイト)。いつも黒マスクで、誰とも絡まない一匹狼。付いたあだ名がクール王子…ねぇ』




「かっこいいよねぇ」




ほぅ…とため息を洩らす。




『そんな学校中のアイドルに惚れたのが瀬良(セラ)舞衣さんということで』




「えへへ…」




『しっかしあんたもよくやるねぇ。最早学校の名物みたいになってるじゃん』




「だって…好きなんだもん」




『それはよーく知ってるよ』




よしよし、と頭撫でられる。サバサバしてるけど、私の恋を応援してくれる凛ちゃんは、とても優しくて素敵な人だ。








海斗くんは、入学式の日からみんなの注目の的だった。
一匹狼で、みんなと仲良くなりたがらなそうな雰囲気だったから。




私はそんな彼が気になって仕方なかった。
だから、同じクラスになったのがとても嬉しかった。




「どんな笑顔なんだろう」




「どんな物が好きなんだろう」




知りたいことだらけで、いつも彼のことを目で追っていて、気付いたら好きになっていた。
好きになってからは、想いが届いて欲しい一心で沢山告白した。






「海斗くん、好き!」




『うん』







「付き合ってください!!」




『ごめん、無理』




でもまぁクール王子という名の通り彼の対応はいつも素っ気ない。
いつか届くことを信じて伝えていたら、いつの間にか学校の名物と化していた。









『ほんとに好きなんだねぇ』




「うん」




『いつか伝わるといいね』




「伝えてみせるよ!」




グッと拳を握りしめて意気込むと、凛ちゃんはふふっと笑った。




『その意気その意気。応援してるよ』




「凛ちゃぁぁぁん」




『わ、こら、抱きつくなって…!』




いい友達を持って、私は幸せだなと思う。
















1週間後に文化祭が迫っていた。
私たちのクラスはお化け屋敷。
看板を作ったり、教室を暗くしたり、着々と準備を進めていく。




『ペンのインク切れたんだけどー』




『誰かこっち手伝って!』




『お前顔にペンキ付いてんぞー』




『買い出し行ってきてー!』




『男子!ふざけて遊んでないで手伝ってよ!!』




沢山の声が飛び交っていてうるさい。でもこれが青春なのかなとも思う。
海斗くんは1人で黙々と看板作りをしていた。その顔にペンキが付いているのに気が付いた。




「海斗くん!」




『…なに?』




「顔にペンキ付いてるよ」




ちょいちょいと自分の頬を指さしながら伝える。海斗くんは頬を手でグイッと拭った。
でも逆にペンキが広がってしまう。




「あ、待って。広がっちゃってる。これで…」




ハンカチで拭くと綺麗に拭うことが出来た。




「うん!OKだよ」




『サンキュな』




「どういたしまして!」




『舞衣ー!ちょっとこっち手伝ってくれるー!?』




「分かった!またね、海斗くん」




友達に呼ばれ、海斗くんに手を振ってその場を離れた。




「どうしたの?」




『この袋ゴミ捨て場に持ってきたいんだけど、一緒に持って行ってくれない?』




「いいよー!」




腰を屈め、ゴミ袋に手を伸ばす。
と、




『ぎゃははは!こっちこっち!』




『お前待てよ!』




ふざけ合っていた男子がこちらに来て、近くにあった掃除用具入れにぶつかった。




『舞衣!!』




友達の悲鳴に近い声に顔を上げる。目の前には掃除用具入れが迫ってきていた。




「え」




ガッターン!!!!!




大きな音と共に体が床に押し倒される。




『きゃぁぁぁぁあ!!!』




『おい!女子が下敷きになったぞ!』




『保健室_!』




徐々に視界が薄れ、私は意識を手放した。






























「ん…」




次に目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていた。チッチッチッと時計の音が響いている。ゆっくりと体を起こした。すると、シャっとカーテンが開いた。




『あら、瀬良さん。起きたのね』




「ここは…」




『保健室よ』




「私…何があったんですか」




『掃除用具入れが倒れてきて下敷きになったのよ。覚えてない?』




「あ、なんとなく…」




『まだ安静にしてなきゃダメよ』




「はい…」




『神木さんが来て、荷物持ってきてくれたわよ』




「凛ちゃんが…」




『まだ貴女は寝てたから、文化祭の準備に戻って行ったけど』




「そうですか…」




ここでふと疑問が頭をよぎった。




『あの、先生。私、気を失ってしまったんですよね?』




『ええ。そうね』




「ここまではどうやって来たんですか?」




『あぁ、それなんだけど_』


































オレンジ色の光が差す廊下を走って自分の教室まで向かった。
朝とは違い幻想的で綺麗な雰囲気だ。
走りながら、先程の保健室の先生との会話が蘇る。




《漣くんが貴女をここまで運んでくれたのよ》




《漣くんってそんな1面もあったのね。彼、クールなイメージだったからびっくりしちゃったわ》




《漣くんが…ですか?》




《ええ。しかもね_》




教室の前まで来て、ガラッとドアを開ける。
海斗くんが、いた。
外を眺める横顔がオレンジ色に照らせれて、美しかった。




「海斗くん…」




呼んだ名前は、思った以上に小さかった。
それでも彼には聞こえたようで、ゆっくりとこちらを向いた。




『体調、大丈夫か』




「あ、うん…大丈夫…」




『そうか』




沈黙が流れる。運んでくれたお礼を言わなきゃいけないのに、言葉が出ない。
ゆっくりと口を開いた。




「あ、の…運んでくれて、ありがとう…先生から、聞いた」




声が震える。
海斗くんはじっとこちらを見ている。
それがとても気恥ずかしい。




「それで、その…なんでなの?」




『何が?』




「いや…」




口にするのを尻込みすると、海人くんが『あぁ』と答えを出した。




『何でお前をお姫様抱っこで保健室まで運んだか…か?』




「…っそう」





『…なんでだと思う?』




「え?」




『お前をお姫様抱っこで運んだ理由』




「え…わかんない…」




『当ててみ』




うーんと下を向いて考え込む。と、視界が暗くなる。顔を上げると、海斗くんが近くまで来ていた。きっと手を伸ばせば届く距離。




「海斗…くん?」




『…わかった?理由』




「わかんない」




そう言うと海斗くんは少し目を見開いて、はぁーとため息をついた。




『…天然なの?それ』




「え、なに?」




『…俺がなんとも思ってないやつをわざわざクラスの奴らの前でお姫様抱っこなんかして運ぶと思うか?』




「え…」




『もう分かったろ』




優しく先を促すようにしてこちらを見つめる。その目をしっかりと見つめ返した。




「わかんない」




「ちゃんと言ってくれないと、わからない」




さっきより目を見開いている海斗くん。
意地悪しすぎちゃったかな…と、少し焦る。
すると、グイッと引き寄せられる。




「わっ」




ぎゅうと強くも優しく、暖かく包まれる。こめかみ辺りがくすぐったく感じ、抱きしめられていると理解した。




「え、ちょ、海斗くん!?」




『うるさい。ちょっと黙ってろ』




そう言われ押し黙る。
ドクン、ドクンと心臓がうるさい。これ、海斗くんに聞こえてるんじゃないかな。顔が熱くなっていくのがわかる。
しばらく沈黙が2人を包んだ後、包まれていた力が少し緩まった。




『好きだ』




耳元でボソッと言われる。びっくりして顔を上げる。黒マスクでよく見えないけど、海斗くんの顔が赤かったのは夕焼けのせいではない気がする。




『…あんま見んな』




手で顔を隠される。言ったら怒られそうだけど、可愛いと思ってしまった。




「…私のが好きだもん」




『今は、な』




「なっ…」




『これから覚悟しとけよ』








クール王子な君との恋。

それは甘くて酸っぱくて

まるでオレンジのような恋_

榊 夜綴・2020-12-27
沙織さんとコラボ
なんかめっちゃ雑な気がする((
ごめんなさい沙織さん
海斗目線書きたいなこれ
最後Sみたいになってる気がする…まぁいいか←おい
情景描写が相変わらずごみくず
語彙力欲しい
小説
オレンジ色の「好き」
好き
告白
片思い
恋愛
独り言
雪の降る夜に君と
青の空に舞い散る
まだ見ぬ世界の空の色は






〈向日葵色の夏〉




























『余命3ヶ月です』




眼鏡をかけた冷たそうな目をした先生に、そう言われた。




ほんとに余命宣告ってされるんだ。
漫画だけの話じゃないんだ。




頭を巡るのはそんなことで。




隣では両親が泣いていた。




外でうるさいくらいに鳴く蝉が、私の代わりに泣いていた。





















































空が好きだった。




いつも新しい雲を連れて、世界を回る空。




時には晴れて、たまに泣いて。
表情を曇らせたりもして。
一日だって同じ天気にはならない。
同じ景色を見せない空が、好きだった。




私のカメラロールは空の写真でいっぱいで。
その写真を眺めたり、空を眺めたりして時間を潰すのが癖だった。




余命宣告をされたあの日から数日。
入院を余儀なくされ、空を眺める時間が増えた。
ベットに寝ながら窓の外を眺める。




窮屈だ。と思う。
鳥籠の中の鳥はこんな気分なのだろうか。




最低限の食事と、呼吸には困らない場所は与えられ。
すぐそこに広がる壮大な景色には、手を伸ばすことしか許されない。




ごめんね。と心で謝る。
こんな気持ちだったなんて知らなかったんだ。
家で飼っていた今は亡きインコに謝罪した。
届きはしないだろうが。




『あ、』




耳に飛び込んで来た見知らぬ声とドアが開く音に目を向ける。
ドアを開けたままの状態で、見知らぬ男の子がこちらを見ていた。




『すみません。病室間違えちゃって…』




『204号室ってどこですかね?』




「204号室は二つ隣です」




『ありがとうございます』




そう微笑む彼に会釈をし、視線を外に戻した。
が、しばらくしてもドアが閉まる音がしないのでもう一度振り向く。
彼はまだそこにいた。




「何か用ですか?」




『いや、あの…』




もじもじとして中々言おうとしない彼に首を傾げる。
なんだ、どうした。




『綺麗だなって思って…えと、その』




『一目惚れしました!!!』




「は??」




ぽかんとして彼の顔を眺める。
思わず素の声が出たが、それ以上の情報で頭がいっぱいだ。
彼は耳まで真っ赤にして、こちらを見つめている。




一目惚れ?この人が?
誰に?
つーかこの人誰よ。




「え…と」




『あぁぁぁ急にこんなこと言われても困りますよね…!すみませ…っ』




さっきまで赤かった顔が今度は青くなる。
分かりやすく慌てふためく彼に思わず笑みが零れる。
なんだか犬みたいだ。




そんな私を見て彼は、笑った顔も美しい…とかなんとか呟いている。




大丈夫かこの人。




『あの、でもさっきのほんとなんで』




急に真剣な顔つきになる。
じっと目を見つめられる。
綺麗な目だ。吸い込まれそうな気持ちになる。




『僕のこと、ちゃんと考えて欲しいです』




真面目ないい人なのだろう。
少し話しただけだがそれは分かる。




でも、私の心は決まっている。




「ごめんなさい」




そう言うと彼の顔が歪んだ。




『初対面だからですか?まだ会ったばっかりだから…?』




『それなら、これから毎日ここに来ますから!だから…っ』




その言葉を制すように首を振る。
そしてゆっくりと口を開いた。



「アイスバーン症候群」




「…って知ってる?」




『…知らないです』




無理もない。私もついこの間知ったのだから。




「肺の中に氷の塊が出来て、だんだんと肺が凍えてく病気」




「原因・治療法共に不明」




「最終的に肺が全部凍って、呼吸が出来なくて死んじゃうんだって」




「それが、私の病気だよ」




ここまで一息に言った。
彼の目をじっと見つめた。




「余命は3ヶ月」




彼が息を飲んだのがわかった。
にっこりと笑って彼を見る。




「分かったでしょ?私はもうすぐ死んじゃうの」




「だから君の隣にはいられないよ」




なぜ笑えるのか、自分でも不思議だった。
なぜ会ったばかりのこの人にここまで私情を話しているのか。




目の前のこの人を悲しませたくないから?
もう死を覚悟しているから?
きっと両方だろう。




病気だとわかってから、親が色々と調べたらしく、私に教えてくれた。




今のは全部親の入れ知恵だ。




私は別に知らなくても良かった。
いつか死ぬ。
それならそれでいい。
私はきっと、死に対する恐怖が薄れているのだろう。




『…す』




「え?」




『嫌です』




『確かに貴女は病気で、余命幾ばくも無いかもしれない』




『でも、僕は貴女の傍にいたい。辛い時、苦しい時、僕が支えます。だから…っ』




『ここに来ます。貴女に会いに。僕のこと、知ってください。傍にいて欲しいって、思わせてみせますから!!』




病院だから大きい声を出してはいけないとか。
そんなに大声出さなくても聞こえてるとか。
なんて傲慢な宣言だろうとか。
色々言いたいことはあったけど。
全てどこかへ吹っ飛んだ。




気付いたら私は声に出して笑っていて。




「いいよ」




『え?』




「君のしたいようにして」




「傍にいて欲しいって。そう思わせてみてよ」




死ぬならそれでいい。
死は怖くない。




そう思っていたけど。
少し、彼に賭けたくなった。
私が生きる希望を見いだせるか。




私の言葉に、彼は顔をパアッと輝かせて太陽みたいな笑顔で頷いた。

















































『おはようございますっ』




「おはよう。よく来るね」




『言ったじゃないですか。毎日ここに来るって』




「ほんとに来ると思わなかったよ」




『そんなぁ』



シュンとする彼に思わず微笑む。
本当に分かりやすい。




彼と出会ってから一週間が経った。
宣言通り、彼は毎日私の病室に来た。




今日は学校でテストがあったとか。
校長先生のカツラが取れそうになってて笑いをこらえるのに必死だったとか。
もうすぐ中学生になる妹がいるとか。
色々なことを話した。
本当に、色々。




話題が尽きるなんてことはなかった。
言葉から生まれたんじゃないかと思うくらい、彼はよく話した。




びっくりさせられたり、笑わされたりして、彼の話を聞くのが、私の生きがいになっていた。







でもそんな日々は長くは続かないわけで。




彼と出会って1ヶ月が経つ頃には、私の症状は目に見えて悪化していた。
爪先と唇は紫色になり、常に身体が寒さで震える。
夏なのに、私の病室には暖房がつけられた。




彼はそれでも毎日私の元へ来た。




「暑いでしょ」




『全然そんなことないですよ!』




明るく笑う彼。
本当は暑いだろうに、そう言わせてしまうのが申し訳なかった。




今日も彼が来て、沢山の話をする。
少し窓を開けると、熱風が入り込んできた。




『先輩は、行ってみたい所とかあるんですか?』




「そうだなぁ」




ふと、花瓶に生けられた花が目に入った。




「_け」




『え?』




「向日葵畑。行ってみたい」




「まだ行ったことないんだよね。多分、行けないと思うけど」




そういい自嘲気味に笑う。
なんとなく気付いていた。
命のタイムリミットが近付いて行ってる自覚。
もう手の施しようがない自覚。




両親や先生、看護師さんの顔色でわかる。
私はもうすぐ死ぬのだと。




みんな悲しげで、何処か顔色を伺うような態度で私に接するから。




神様は本当に無慈悲だ。




『じゃあ行きましょうか』




「は?」




『向日葵畑。行きましょう』




場違いな太陽みたいな笑顔で、彼はそう言った。























































空の青と、向日葵の黄色は、こんなにも合うものだと、実際に見て初めて知った。
何百と咲く向日葵が風に揺れている様は圧巻だった。




「ほんとに来ちゃったよ」




『先輩、行きたいって言ってたじゃないですか』




「いや、言ったけど」




『なら、行くしかないでしょう』




何を言っているんだか。
そんな思いを込めて彼を軽く睨む。
そんなの諸共せずに、彼はケラケラと笑った。




「てか、先生に許可取ってないでしょ」




『取ってないですねぇ』




はぁ、とため息を着く。
そんな私を見てか、彼は




『帰ったら怒られちゃいますかね』




そう言った。




「いや、怒られないよ」




私の言葉を聞いて、彼は黙った。
何も言わなかったけど、私の手を握る彼の手に、力がこもった。




「ありがとうね」




『先輩のためですから』




「ほんと、忠実だね」




『先輩にだけですよ』




「ふは」




ざあっと風が吹いて、向日葵たちが揺れた。
黄色の花びらがあちらこちらに舞って、花のシャワーになった。




「そう言うのは、好きな子だけに言いなよ」




『僕、先輩好きですよ』




誰に言うわけでもなく呟いた声は、彼に届いていたらしい。




「うん。知ってる」




ぎゅうと彼の手を強く握った。
彼の手が、少し震えているような気がした。




「ねぇ」




握っていた手を離して、彼に向かって手を広げた。
何も言わなくても彼には伝わって。
そっと抱きしめられた。
手を回した背中は、暖かかった。




「ありがとう。ここに来れてよかった」




『はい』




「振り回してごめんね」




『先輩のためなら平気です』




「出会った時から思ってたけど、犬みたいだよね」




『よく、言われます』




背中に回していた手を、そっと頭にのせる。
わしゃわしゃと撫でると、甘いシャンプーの匂いがした。




彼は肩に乗せていたおでこをさらにグリグリと擦り付ける。
身体が震えているような気がしたのは、きっと気のせいじゃない。




震える手で、手を首に回した。
耳元でそっと呟く。





「最後のわがまま、聞いてくれる?」




『…はい』




「幸せになること」




『…っはい…』




答えた声が震えていたのは、気付いていないふりをした。
暖かい彼の身体とは対照的に、私の身体は冷えきっている。
それでも彼は私を抱きしめて離さなかった。




『…先輩…っ』




「…なに?」




『僕もわがまま、いいですか』




「うん。いいよ」




耳元で囁かれて少しこそばゆい。
痛いくらいに抱きしめられたまま、彼は言った。




『もし生まれ変わって、もう一度出会うことが出来たら』




『僕のお嫁さんになって下さい』




「君が望むなら、喜んで」




私の答えに、彼は何も言わなかったけど。
じんわりと肩が熱くなったのがその答えだろうか。




段々と身体が寒くなってくる。
身体の震えを止められない。




眠くて眠くてたまらない。
このまま眠ってしまいたくなる。
立っていられなくなって、その場に崩れ落ちた。




『先輩、先輩…っ』




必死に呼びかけてくれる声にも答えられない。




あぁ、神様。
意地悪な神様。




最期にもう一度。
彼の暖かい手に触れさせて。
彼に触れる力を下さい。




力を振り絞って彼に伸ばした手は、彼に握られた。
暖かい。太陽みたいな手。
安心する手。




『…せん…ぱ。これ、持っててください…そしたら僕…先輩…見つけます…必ず…っ』




そう言い握らされたのは、私の大好きな。
向日葵。




「ん…待って…る」




指を絡められる。
弱々しく握り返すと、彼は笑った。
涙でぐしゃぐしゃの顔で。
太陽みたいな笑顔で。




それが、私の見た最期の景色だった。













































『貴女だけを愛してます。先輩』

榊 夜綴・2021-06-12
動画20回ぐらい見てやっときた
頑張ったよ私
実際にはこんな病気はない。はずです←
安定に内容が薄いなおい
小説
向日葵色の夏
両思い
別れ
病気
死別
ポエム
独り言
梅雨恋
恋人の日
まだ見ぬ世界の空の色は

他に61作品あります

アプリでもっとみる

その他のポエム

独り言
928533件

流れ星
4351件

自己紹介
79479件

好きな人
286561件

423199件

トーク募集
68477件

ポエム
497130件

恋愛
178501件

願い
21317件

辛い
161568件

片想い
212700件

失恋
98819件

死にたい
84000件

片思い
171917件

好き
189902件

結び目
5020件

彼氏
76005件

苦しい
51730件

先生
102957件

歌詞
117205件

叶わない恋
48391件

すべてのタグ