『愛があったら。』上
※大人要素あり
生きてればそれでいい
誰かがそんな事を嘆いた
分厚い本と、大量の言葉で
誰かがそれに
普通と名をつけた
多分、そこから
生きたいと思わない人が
異常と言われた
本当、多分だけど
「璃愛ちゃん!今日は良かったよ。
有意義な金と時間を使えた。」
「私こそ、有意義な時間でした。
また、よろしくお願いします!」
クルリと背を向けて
夜の街を去って行く男
金があって、家庭もあって
私ならきっと、それ以上
何も求むものなんてないのに
さっきの男も
今までの男も
みんな、私を求めた
私は求める真似をして
心から終わる事を願った
家に帰って
Twitterを開く
「二万でどう?」
DMを開けば
必ずこの文字が飛び込んでくる
私は一つ一つに
「是非、よろしくお願いします🙇⋱♀️」
と、返す
早ければ一分
遅ければ翌日に返ってくる
メッセージのやり取りを続け
今の男みたいな人達に
私を、売る
メンタルも身体もぼろっぼろ
それでも家に帰った時
癒してくれる人も動物も
何も、居ない
あるのは
ホコリだらけの
狭い狭いこの家だけ
親二人が私を捨てても
たった一人
優しさと愛と幸せと
この家をくれた
ばぁちゃんも
去年、死んで
焼いてあげることも出来ず
ダムに捨てた
自分も捨てようとしたけど
死にたいが足りなかった
五個98円のコロッケの一つを
半分に切って
それを水でふやかして
よーく噛んで食べる
一日のご飯、それで終わり
どうしてもお腹が減ったら
男達に奢ってもらう
こんな生活、生きてるって言うのか
そんな疑問は消えないまま
今日も眠りにつく
朝起きて、Twitterを第一に開く
普通の16歳の人は
今頃、学校なんだろうけど
私は違う
男達に買って貰った
露出度の高い服と
少ないメイク道具を使って
男の気持ちを高ぶらせるような
メイクをして
男からの連絡を待つ
「いつものカフェで待ってて。」
そんな連絡を見て
溜息を零さないように息を止め
男との約束場所のカフェに向かった
フリーWiFiがあるから
連絡を取るのにはもってこいだ
カランカラン
古びれた鈴が鳴る
「いらっしゃい。」
若マスターのその言葉に
軽く会釈をして
カフェの片隅
男からの連絡を待つ
まだかな
約束の時間よりも
30分遅れている
少しイライラした気持ちを
表さないように
「今日は厳しいですかね?」
と、文字を打つ前に
男から連絡が来た
「ごめん、子供が家居る。」
はぁ、と深く溜息を吐き
「大丈夫ですよ!また今度。」
と、返した
ドタキャンは良くあるけど
ここまで用意してのドタキャンは
初めてだった
せっかく用意したのに
そんな気持ちが涙に変わる
「…死にた。」
軽く呟いただけでも
涙が止まらなくなる
ずっと触れなかった所に
触れてしまったようだ
迷惑をかける前に
店を出なきゃ
と、思っても
立ち上がる気力すら湧かない
そんな時だった
コトン
目の前に、一つのグラスが置かれた
「頼んで無いですよ。」
そう言ってその場を去ろうとした私に
そのグラスを置いた張本人が言った
「プレゼント。」
その言葉に驚いて顔を上げると
若マスターだった
「…プレゼント?」
そう聞き返すと
「疲れてるようだから、プレゼント。」
まるで、当たり前な事をした
とでも言うような顔で
マスターは笑っていた
グラスを取って
若マスターは私にそれを差し出した
断れる訳もなく
「ありがとうございます。」
と返して
私はそれに口をつけた
「あ、毒入ってないからね?」
ふふ、と笑って
冗談を言った若マスターに
私も本当に自然と
笑ってしまっていた
口に含んだグラスの中身のものは
栄養ドリンクだった
あまりにも予想外だったそれに
また、少し笑ってしまった
「美味し?」
優しく微笑んで尋ねてきた若マスターに
「美味しいです!」と
元気よく返した
栄養ドリンクを飲み終えた後
お客さんが来て
若マスターはカウンターに戻った
私は、お礼を言いたくて
カフェが終わるまで
ずっとそこに居た
若マスターはそれを責めるでもなく
たまにちらっと見て
微笑んでくれるという
神対応をしてくれた
営業時間終了後
何かお礼をさせて欲しくて
店の掃除をした
それから、少し
若マスターと話をした
「俺は新庄 蒼雅やから
好きに呼んでいいよ。」
「新庄さん。」
「却下。」
「えっ、じゃあ、蒼雅さん。」
「んー、嫌。」
「何ならいんですか!」
「蒼ちゃん。蒼ちゃんがいい。」
「…さんはダメですか。」
「ダメです。」
とまぁ、こんな流れで
蒼ちゃん、と呼ばせて貰う事になり
私は、璃愛だから
りーちゃんと呼んで貰う事になった
敬語も、禁止された
気付けば辺りが暗くなり
一人で帰るのは危ないからと
蒼ちゃんが送ってくれた
「また来いよ!飯くらいやるから。」
「ありがと。また、行くね!」
ブーンと車の音が聞こえなくなるまで
私は蒼ちゃんに手を振った
また一人になった気がして
涙が零れた
10月、肌寒い家に帰っても
暖房も何もつけないまま
布団に潜って、眠りについた
朝起きて
昨日ドタキャンしてきた男の垢を
ブロックした
それから、今日会う予定の男に
メッセージを返す
その後、流れで交換した
蒼ちゃんのLINEに
「おはよう。」と送った
男と会うのは、夜
営業時間終了後だから
私はいつもの服を着て
少し気合いの入ったメイクをして
蒼ちゃんの待つ、カフェへ向かった
「いらっしゃい。」
蒼ちゃんは、昨日と変わらない
笑顔で迎えてくれた
流石に何も頼まないのは
申し訳なくて
一番安いココアを頼んだ
私が頼んだのはココアだけなのに
蒼ちゃんはケーキもつけてくれた
その優しさが暖かくて
そのケーキを食べてる途中に
泣きかけた
私はまた、営業が終わるまでいた
地獄に向かう為に
なるべく今を楽しまないのに
必死だった
「りーちゃんのおかげで
綺麗なった。本当ありがとうね。」
掃除しか出来なくて
申し訳ないなんて思っていたら
蒼ちゃんがそう言って
頭を撫でてくれた
私はその暖かさに甘えそうで
一歩離れてしまった
そして、時間を確認する
「…もう、行かなきゃ。」
ここから15分程で着く
ホテルの前で待ち合わせだ
流石にそろそろ行かなきゃ
間に合わない
「どこ行くん?」
急いで準備をする私に
蒼ちゃんが聞いた
パパ活だよ、とは答えられなくて
「ちょっと、ね。」と返した
引き止める声を無視して
私は早足でホテルへ向かった
着くと、もうそこに男が居た
「行こっか。」
地獄の始まりを知らすその声に
私は頷いて
脂っこい手に自分の手を重ねて
ホテルの中に入った
チェックインを済ませた後
部屋に入ると
すぐに男が重なってきた
何故か蒼ちゃんの事を考えると
また、涙が溢れた
「泣いてるの?」
心配そうなその声に
「嬉しくって!」と
真逆な事を返した自分を恨んだ
男はその言葉をそのまま受け入れ
更に私を求めてきた
蒼ちゃん
名を呼べば苦しくなるから
私は男で沢山にした
家に帰った頃には
日が昇っていた
身体が臭い、嫌だ
お風呂は入れないから
バケツに水をくんで
お風呂場で思い切り被った
「…だっさ。」
何故か、笑えた
だっさくて惨めで
愚か過ぎて笑えた
床に落ちた水に
写った私の身体は
酷く汚かった
その日は、泣きながら寝た
蒼ちゃんが夢に出て来て
おいでと手を広げられて
ハグ、された
夢であった事が辛かった
コロッケを食べて
服を着て、メイクをして
男に会いに行く途中
蒼ちゃんと出会ってしまった
「どこ行くん?」
前にも言われたその言葉に
今度は、なんて返そうか
迷っていた時
「あれ、璃愛ちゃーん?」
後ろから、男がやってきた
最悪だ、と思った
もうどうにでもなれとも思った
男から誰?と蒼ちゃんの事を聞かれ
「知らない人ですよ!」なんて
答えてしまった
蒼ちゃんの顔を見てられなくて
初めて、私から
ホテルへと腕を引こうとした
そんな時だった
「りーちゃん、行くよ。」
あの声と、あの暖かさと
男らしい、強さ
蒼ちゃんだ
その蒼ちゃんが、私の腕を掴んだ
そして、走り出した
私の有無を聞かず
走り出した蒼ちゃんに釣られ
私も走った
もちろん男も追いかけて来たけど
直ぐに見えなくなった
行先は、ホテルじゃなくて
カフェだった
今は開店時間なのに
看板は閉店中のままだった
「どうして。」
ありがとうより
怖かったより
その言葉が先に出た
「りーちゃんが来なかったから。」
その言葉を聞いた時
また、泣きそうになった
でも、グッと堪えて
「邪魔、しないでよ。」
そう、言ってしまった
ーContinueー