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#予告したやつ

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全1作品・



〈七色流星群〉









夏の夜は風すらも熱を含んでいて


とても涼しいなんて呼べなかった。


今夜も例外ではなくて


うざったい位の熱風が


私の体の周りを纏っているみたいだった。


でも今の私には


暑さとか寒さとか


どうだって良くて


ただぼんやりと頭上に浮かぶ月を眺めていた。


正直どうやってここに来たかも覚えていない。


気付いたら屋上にいた。


今は月を綺麗だなんて思えなかった。


そんな余裕、今の私にはなかった。




『こんばんは。今夜は月が綺麗ですね』




ふと、後ろから声が聞こえる。


振り返ると男の子が立っていた。


綺麗な人だ、なんて


月を見ても思わなかったことを思った。


その人は私の方をじっと見つめている。


今私は酷い顔をしているだろうに。




「口説いてるつもりですか?」




初対面で『月が綺麗ですね』なんて


意味知ってて言ってるのだろうか。


そうだとしたらかなりやばいやつだ。




『いや、そういう意味じゃないです』


『言ってみただけですよ』


『初対面の人に告白するほど、俺はやばいやつじゃないですから』




どうやらやばいやつじゃないらしい。





「...そうですか」




そう言い元の位置に向き直った。


何しに来たのかさっぱりだが、1人にして欲しかった。


と、彼は何故か私の隣に来た。




『なんかあったんですか?』


「え?」


『いえ、すっげぇ悲しそうな顔してたんで』


『何かあったのかなと』


「......何も無かったら」


「こんな時間にこんな場所の屋上に来ないですよ」


『それもそうですね』


『夜11時半に病院の屋上にいる物好きは』


『俺たちだけだ』




彼はそう言い笑った。


つられて私も微笑んだ。


なんだか不思議な人だ。




『言いたくなかったらいいけど』


『何があったの?』




一瞬話すべきか迷った。


こんなこと聞いたってどう反応していいか困らせるだけかもしれない。


でも


私1人になった今1人で抱えているのは限界だった。


月を見ながらぽつぽつと話す。




「...今日、お姉ちゃんが死んじゃって」


「私にとってお姉ちゃんは誰より大好きで大切な人だった」


「なのに交通事故で病院に担ぎ込まれたって連絡があって」


「急いで来た時には、もう...」


『そっか...』


『あの...他の家族の人達は...?』




彼が恐る恐ると言った感じに聞いた。


月を見たまま答える。




「いないよ」


「お父さんとお母さんは私とお姉ちゃん2人を孤児院に預けて蒸発」


「まだ赤ちゃんだったから顔すら覚えてない」


『...そっか』




痛いくらいの沈黙が流れる。


やっぱり言わない方が良かったか。


隣を見ると同時に




『俺も今日、余命宣告されたんだ』




彼も口を開いた。




「...え?」


『俺、生まれつき心臓の病気でさ』


『今まではなんとか持ちこたえてたんだけど』


『とうとう余命宣告されちゃって』


『臓器提供がないと手術出来ないのに』


『それを待って下さいって』


『身体の方がもたないよな』




彼は諦めたように笑った。


さっきの笑顔とは別人のようだった。




『もうただ死を待つだけの身』


『俺には未来なんてないよ』




そう言う彼を見ると、数時間前の出来事が蘇ってくる。




「...そうだね」


「絶対って、言ったのにな」






《先生、お姉ちゃん助かりますよね!?》


〈大丈夫、絶対成功しますよ〉


〈だからここで待ってて下さい〉



〈_誠に残念ですが...〉


《そんな...お姉ちゃん!お姉ちゃん!目開けて!!いや、お姉ちゃん!!》






「この世界に絶対なんてないの」


「私はもう、いつ死んだっていい」




そこまで言って彼の顔を見る。




「お互い似てるんだね、私たち」


『...そうだな』




ふっと微笑むと彼も笑い返してくれる。


優しい顔のままで、彼は私に言った。




『きっとお父さんとお母さんも、君の幸せを願ってるよ』


「...え」


『遠い場所かもしれないけどね。きっと_』


「ふざけないで!!」




彼の言葉を遮って叫んだ。


言葉が喉から飛び出してきた。


彼のびっくりした顔が目に飛び込んでくる。





「あの人たちが私の幸せなんか願ってるわけない!!」


「まだ赤ちゃんだった私とお姉ちゃんを捨てたのよ!?そんな人たちが私の幸せを願ってる!?」


「そんな訳ないでしょ!!」


「あの人たちは私の事なんてどうだっていいのよ!!お姉ちゃんが死んだことも知らずに、何処かでのうのうと生きてるの!!」


「私はこんなにも苦しいのに!!」


「あんたに私の何が分かるのよ!」


「大切な人を失ったことなんかないくせに!!」




言い終わってから、とんでもないことを言ったと気づいた。


ハッとして彼の顔を見る。


さっきとは打って変わってとても怖い顔をしていた。




『お前だって俺の事何も分からないだろ!!』


『お前こそもう生きれないって知った時の気持ち、考えたことあんのか!!』




そう怒鳴る彼はとても怖くて


私は何も言えなかった。




『...もういい。帰る』




彼は私をチラリとも見ずに屋上の扉から出ていった。


残された私はただ呆然として


彼が出ていった扉を見つめていた。










次の日。


私はまた屋上に向かっていた。


彼に謝ろう。


元々酷いことを言ってしまったのは私だ。


私から謝らないと。


そう思い扉を開けた。


昨日と同じ場所に、昨日見た背中があった。


扉が開く音に気付いたのか、彼がゆっくりこちらを振り返った。


目が合って頭を下げる。




「ごめん!!」


「勢いに任せてあんなこと言っちゃって、ほんとにごめんなさい。貴方の気持ち何も知らないのは私の方だったのに...」


「本当にごめん!!」




しばらく沈黙が続く。


彼は何も言わない。


許して貰えないのだろうか...


と。




『俺も、ごめん』


『俺だってお前のこと何も知らなかったのに、勝手にお父さんとお母さんのこと言っちゃって』


『本当にごめん』




顔を上げると、彼も頭を下げて謝っていた。


お互い謝っているのがなんだかおかしくて


2人でまた笑った。


ひとしきり笑ったあと、昨日から気になっていたことを聞いてみる。




「あのさ」


『ん?』


「名前、なんて言うの?」


『あぁ、俺は快斗(カイト)』


『お前は?』


「私は星花(セイカ)」


『よろしくな、星花』


「こちらこそ、快斗」




お互いに名前を教えあって、目が合って笑って。


快斗といる時間は、本当に楽しかった。











「え...臓器提供が間に合わない?」


『あぁ。もう無理かもしれないって』


「嘘...」




しばらくしたある日。


私は快斗に話があると言われ、快斗の病室にいた。


そこで聞いたのは、快斗の余命宣告までに臓器提供者が出ないかもしれない。ということだった。




「でも、まだ分からないんでしょ??これから現れる可能性だって...」


『そうだけど...それ相応の覚悟はしておけって、先生が』


「そんな...」




声が掠れる。


臓器提供者が出ない?


快斗が、死ぬ?


嫌だ。


想像しただけでも嫌だ。




「快斗」


「余命宣告って、いつなの」


『それは...』




快斗が声を詰まらせる。




「快斗、教えて。お願い」




私が何度も詰め寄るので、観念したのか




『...7月8日』


「7月8日...って、明日じゃない!!」




今日は7月7日。


快斗が余命宣告された日付は次の日だった。




「なんで言ってくれなかったの!!こんな近くになるまで...!!」


『星花が悲しそうな顔すると思ったら言えなかったんだよ!!』


「...っ」




その言葉に思わず押し黙る。




『ほら、その顔。だから言いたくなかったんだよ』




そう言う快斗も、とても苦しそうな顔をしている。


快斗...


なんで快斗なんだろう。


どうして...


ふと、ある考えが私の頭に閃いた。




「...快斗、臓器提供者がいれば、快斗は助かるんだよね?」


『あぁ...臓器提供されても、その臓器が身体に馴染まずに拒絶反応を起こすこともあるらしいけどな』




臓器提供をすれば、快斗は助かる。


私が何を考えているのか分かったのか




『星花、お前まさか』


「私が、快斗に臓器提供する」




快斗が言おうとしていた言葉を引き継いで私が言った。


快斗の顔が歪む。


喧嘩したあの日のように。




『おまっ何言ってんだ!!なんで星花が_』


「だってこうしなきゃ快斗は助からない!!」




私は思いっきり叫んだ。


同じ病室の人達がびっくりしたようにこちらを見ている。


でも、そんなの今はどうだって良かった。


病院の中だから静かにしなきゃとか


そんなことは頭になかった。


ただ、快斗を説得しなきゃということしか考えていなかった。




『そんなことするな。いいか、星花が臓器提供したとしても、俺は手術は受けないからな』


「なんで!受けてよ!!じゃなきゃ快斗が!!」


『俺はお前の心臓貰ってまで生きたくはない!!』


「...っ!!」


『星花...もうしょうがないんだ。諦めるしかないんだよ』




苦しそうに、でも優しく笑う快斗を見たくなかった。


視界が滲む。


なんで笑うの。


快斗のが泣きたいはずなのに。


諭すように言う快斗に、私はもう何も言えない。


思わず快斗の病室を飛び出した。


快斗は、私に何も言わなかった。














その日の夜。


私は病室の受付からぼんやりと空を眺めていた。


ラジオが流れていたけど、聞く余裕なんてなかった。


頭には快斗のことしか無かった。


なんとかしなきゃ。


なんとか説得して、快斗に手術を受けさせなきゃ。


でも、どうやって??


今日の様子だと、快斗は私が臓器提供しても手術は受けないだろう。


どうしよう。


どうしよう。


ぐるぐるとその言葉だけが頭を巡る。


何も出ない。


もう時間が無いのに。




「どうしよう...」




思わず口に出して呟く。




『さぁ、今日は七夕!!年に一度、織姫と彦星が出会う日です!!』


『皆さんは願い事は決めましたか??』




ラジオの声が耳に入る。


願い事とかしてる場合じゃないんだよ。


ラジオの声すら鬱陶しく思い、思わず消してしまおうかと考えた。


その時




「七夕...」


「そうだ!!」




言うが早いが全速力で受付を飛び出した。


そのまま階段に向かい2段飛ばしで駆け上がっていく。


途中看護師さんから『静かにしてください!!病院ですよ!!』とか言う声が聞こえたがそれどころじゃない。




「はぁ...はぁ...っ」




息を切らしながら1階から7階まで階段を駆け上がっていく。


7階は屋上だ。


扉をバンッ!!と開け放って屋上に飛び出す。


着く頃には心臓はバクバクで膝はガクガク笑っていた。


空には満点の星空が広がっている。




「綺麗...」




1目見ただけで疲れが吹っ飛びそうだった。


少しでも近くで見たくてフェンスに近づいて行く。


手を合わせて目を閉じる。




「明日...快斗に臓器提供者が現れますように」


「お願いします...お願い...っ」


「快斗を助けて...」




願いながら涙が頬を伝った。


七夕なんて効果があるなんて分からなかった。


でも、今は神でも仏でも


快斗を助けてくれる望みがあるものには、なんにでも縋りたかった。


1ミリでもいい。快斗が助かる希望があるなら。


そこに縋りたかった。


私は一晩中星に願い続けた。












翌朝。


快斗の病室へ向かった。


向かっている途中から、どんな顔で話したらいいかずっと考えていた。


もしかしたら、快斗はもう...


そんな可能性があるのが嫌で、早足で快斗の元へ急いだ。


深呼吸してドアをノックして開ける。




「快斗...」


『星花!!』




私が呼びかけ終わるより先に、快斗の声が聞こえてきた。




「な、なに!?」


『聞いてくれよ!!見つかったんだ!!』




快斗は興奮気味だ。


顔は赤くて早口になっている。




「な、何が見つかったの??」


『臓器提供者だよ!!見つかったんだ!!今日、これから手術するんだ!』




一瞬、快斗が何を言っているのか分からなかった。




「臓器...提供者??」


『ああ!』


「見つかったの??」


『そうだよ!!』


「ほんとに...??」


『こんな時に嘘言うと思うか?』




遅れて嬉しさが込み上げてくる。


臓器提供者が見つかった。


これで、快斗は助かる。




「やった!!!!」




思わず快斗に抱きつく。




『ちょ、星花!?』


「うわぁぁぁぁあ!!良かったよぉ!!」


『分かったから、星花!1回離れて!!』




慌てふためく快斗に抱きついたまま、嬉しさのあまり涙が零れてくる。




『ちょ、なんで泣いてんだよ!!』


「だって...嬉しくて」


『手術はこれからだっての...』





呆れながらも快斗は私の涙を拭ってくれる。


その手はとても優しくて、より泣きそうになった。




「いつ、手術するの?」


『これからだよ』


「これからって...」


『もうすぐ』


「え...」




思った以上に早くてびっくりする。




『大丈夫。俺、絶対戻ってくるから』


「快斗...」


『星花、待ってて。戻ってきたら、笑顔で褒めて』


「絶対って言葉、嫌いなんだけど...」


『そう言うなよ。じゃあ、約束だ』


「ほんとに??」


『あぁ。約束』


「...ん、待ってる。戻ってきてね」


『おう』




そう言って笑う快斗は今までで1番綺麗な笑顔で笑っていた。















快斗が手術に行ってから数時間。


私は手術室の前で待っていた。


いつ出てくるか。


先生が早く出てきて欲しい。


それだけだった。


ずっと座っているのも落ち着かなくて、席を立って歩いたり座ったりを繰り返していた。


と、手術室のランプが消えた。


「!!」


ドアが開いて先生が出てくる。


急いで先生の傍に駆け寄った。




「あの!快斗は...手術はどうなりましたか??」




言葉を待つ時間が永遠に感じた。


心臓がドクンドクンと鳴る。


先生は手袋を外し




『手術は無事に成功しましたよ。彼はよく頑張りました』


『落ち着いたら話も出来ると思います』




と優しく笑って言った。


その瞬間身体の力がふっと抜けたように感じた。


手術は成功した。


快斗は生きている。




「良かった...良かったぁ...っ」


「ありがとうございます...っ」




泣きながらお礼を言う私の背中を、先生は優しくさすってくれた。








しばらくして、先生から快斗と話す許可を得た。


病室のドアをノックしてゆっくり開ける。





「快斗...??」




声をかけてみる。




『せい...か?』


「快斗!」




急いで近くまで行く。




『星花...』


「快斗...よく頑張ったね...ほんとに...良かった...」


『うん...ありがとう』




快斗の声は少し掠れていて小さかった。


手術後すぐだからだろうか。


ベットに横たわっている快斗の手を握る。




『俺...頑張った...よ』


「うん...ほんとに頑張った...」




また涙が零れてくる。


後から溢れて止まらない。




『星花...また泣いてる...』


「誰のせいよ...バカ...」


『ごめん...』


握りしめた快斗の手は暖かくて、生きてることを実感する。


この手が冷たくならなくて、本当に良かった。




「快斗...私ね、お願いしたんだ」


『何に...?』


「昨日、七夕だったからさ。快斗に臓器提供者が現れますようにって」


「そのおかげかな。臓器提供者が現れて、手術成功した」


「七夕の願いが叶ったんだよ」


「織姫と彦星にお礼言わなきゃね」


『じゃあ俺もお願い』


「快斗も??」


『星花とずっと一緒にいられますようにって...』


「...っ!!」




その瞬間また涙が溢れた。


快斗と出会ってから、泣かされることばかりだ。




『1日遅れだけど...叶うかな...』


「叶うよ...私ずっと隣にいるもん...っ」


『まじで...星花泣きすぎだって...』


「...誰のせいよ」


『ごめん』


「ふふっ」


『やっぱ星花、笑ってた方がいい』




幸せを感じて笑う。


これからもずっと一緒にいよう。


今握っているこの手を、私は二度と離したりしないから。

榊 夜綴・2020-07-06
小説
七色流星群
いやくそ長ぇ。めっちゃ長いです
私短編小説とか書けないな今後絶対
予告したやつ
予告と違ったらごめんなさい()
個人的には手術してくれた先生が好き←
今度コメディぽいの書いてみたいなー
七夕
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病気
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七夕
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七夕の願い事
つぶやき恋日記
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