君が隣にいる帰り道
「もう帰るの?」
塾の自習室、君が寂しそうに聞く
生ぬるい暖房の熱が僕たちを包んだ
「うん。もう時間だし」
時計はもう少しで夜の10時を指す
もう少し君とおしゃべりしていたいけど、きっと君のご両親が心配するだろう
「あ、一緒に帰らない?」
僕が君の提案を断った事なんてないのに、いつも君はたどたどしく問いかける
「いいよ」
君が笑った。いつもの明るい笑顔で
「あ、私、歩きなんだった…」
捨て犬のような表情をする君が愛らしかった
そうか、僕は自転車なんだった
「別にいいよ、自転車押すし」
「ありがとう」
君はめったに自習室なんて来ない
今日は何か特別な理由でもあるのだろうか
僕が先生に引き留められてる間に君は何気ない顔で外に出た
僕が外へ出ると君が少し寒そうに手を擦っていた
僕が自転車を取りに行って、君と並んだ
並ぶと僕の小さい身長が目立って、少し恥ずかしかった
「何を話しますか?」
「何でもいいですよ」
僕が敬語を使ったら敬語で返してくる君が愛しい
「何か話したいことありますか?」
君が問いかけてくる
「何でもいいよ」
君と話せるなら何でもいい
「それ、困るやつ」
君が笑った。僕もつられて笑う
君と話すと身長差なんて気にならないくらいに安心できた
君の身長まではあと5cm
早く大人になって君の隣を歩けるようになりたい
「じゃあ、好きな食べ物はなんですか?」
唐突な質問に笑いがこぼれた
そっか、僕達はそんな事すらしらないのか
「きゅうりとメロン以外かな」
「そっか」
僕と君はお互いを知るために質問をした
好きな動物だとか、そんな他愛もない質問をたくさんした
長いようで短かった帰り道
僕の家の前に付いた
「今日は付き合ってくれてありがとう」
少し恥ずかしそうに君がはにかむ
「いい暇潰しになったよ」
こんな時でさえ、素直な言葉が出てこない
楽しかったと言えばいいだけなのに
「そっか、暇潰しか…」
君が寂しそうに呟く
「何て言えばいい?」
君の欲しい言葉をあげたい
君の欲しい言葉を言ってみたい
「え…楽しかったからいいよ。とか」
少し戸惑いながら君は答えた
「楽しかったからいいよ」
君が言ったそのままの言葉
今の僕の言葉じゃ、きっと君を悲しませる
君を悲しませたくない。そんな理由は身勝手なんだろうか
「思ってないでしょ!?」
君は少し不機嫌な表情になった
「楽しかったと思ってるよ」
思ってないと思われるのは予想外だった
「そっか、ならいいや」
少しの沈黙が流れた
「今日誕生日だよね?誕生日おめでとう!じゃ、バイバイ」
君は少し手を振って足早に去っていった
「バイバイ…」
震える声、君にこんな顔見られてないよな…
今日は最高の誕生日になった