そして私達は_
別々の道を歩み始めた。
これはずっと昔の物語_
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♡♡♡♡♡【紅物語】~下~
『華純なら大丈夫だよ』
彼女の優しい声が
今でも頭に残ってる。
「華純ちゃんおめでとう」
「ありがとうございます」
「いやぁまさか、
お店の常連さんと婚約だなんて」
椿姫と別れてから数年。
私もこの街から出ることになった。
「いつかまた遊びに来てね」
「はい、お世話になりました」
働いていた茶処の店主さんに
あいさつをして私は街を歩いていた。
「そうだ、椿姫に手紙を書こう」
さよならしてしばらくは
忙しいだろうから、
私は椿姫に手紙などを送らなかった。
これでやっと_
「あ、華純ちゃん」
振り返ると楓華さんが立っていた。
「まさか華純ちゃんとも
お別れなんてねぇ」
楓華さんは寂しそうに言った。
「早く…椿姫に会いたいです」
そう言うと、
楓華さんは顔を曇らせた。
「椿姫…のことなんだけど…」
「何かあったんですか?」
「実はね、椿姫_」
私は頭が真っ白になった。
「華純、おかえ…」
「ごめん、ちょっと行ってくる!」
彼はびっくりしたような顔をした。
「…親友が…大変なことにっ!!」
そう言うと彼は真剣に頷いた。
「僕がそこまで送るよ」
「っ助かる…」
椿姫が住む町に向かう途中、
私はずっと息が苦しかった。
『嫁いだ先で、
大切にしてもらえなかったらしい…』
『そのせいか、病気に
かかってしまったらしくて…』
『だんだん病気が
悪化してるらしいの…』
「もう、先が長くないかもしれない」
自分で言って苦しくなった。
なんで、なんでよ。
あんなに椿姫は頑張っていたのに…。
幸せになるって誓ったのに…。
汽車が町に到着した。
「椿姫っ、椿姫はっ…」
全速力で椿姫の住む家に向かった。
住所は知っている。
入れさせてもらえるかは…
分からないけど。
「たしかこの先…、…!」
林の入口近くに…
椿姫はいた。
「つ、ばき!」
彼女はゆっくりこちらを向いた。
「…華純…」
「椿姫!!病気だって!
大丈夫なの!?平気?」
私は椿姫を見た途端、
涙が溢れてしまった。
「これ…、薬草なの…」
彼女は手に薬草を持っていた。
「薬が…無いから…、
自分で探したのよ…」
「彼は…私を…
愛してはくれないけど…」
「今生きていることが…幸せなの…」
私はその場に崩れ落ちた。
「ぁあぁあああぁ…」
どうして神様は
私達を救ってくれないのでしょう。
ボロボロの服を着て
傷だらけの手になって
少しの薬草を握っていた椿姫。
こんなに、懸命に…
生きているのに。
すると、急に
椿姫はその場に倒れ込んだ。
「っ椿姫!!!」
口から血を吐いて。
顔色は真っ青で。
身体は痩せ細って。
椿姫を抱えると、
彼女は悲しそうに笑った。
「ごめんね…華純」
「あの時約束破って…ごめんね…」
「もういいのよ、約束なんて!
それより早く薬を…」
「もうね…身体が上手く動かないの…」
「至る所が痛いの…」
「まって椿姫、諦めちゃだめよ!」
椿姫は首を横に振った。
「もう…充分…」
「充分なほど私は…
華純に幸せを貰えた…」
椿姫の身体が
どんどん冷たくなっていく。
「いやだ!椿姫!だめだよぉ」
「ありがとう…華純」
彼女は優しく笑った。
「私の分も幸せになってね」
「私は…こうなってしまったけど…」
「この人生に…悔いは無いわ」
私は止まらない涙を必死に拭って
必死に椿姫に叫んだ。
「まって、椿姫…!いやよ!」
「華純…」
彼女は最期にこう言った。
「だいすき」
その後彼女は…息を引き取った。
その閉じた瞳から
一筋の涙が流れていた。
あぁぁぁぁああぁ!
言葉にならない苦痛が、
寂しさが悲しさが、
私を襲った。
大切な人を失った私は
これから立ち直れるかな?
また笑えるかな?
でも彼女なら_
『ほら華純笑って』
『華純なら大丈夫』
そうやって元気づけてくれるよね。
「華純…」
彼が私の肩に手を置いた。
「幸せになろうな」
「…っん、うん」
必死に頷いた。
そして優しく椿姫の手を握った。
私は心で椿姫に話しかけた。
椿姫、お疲れ様。
今度こそ安らかに幸せになってね。
そしてまた会った時は…
笑顔で、沢山遊ぼうね。
またね。
_これはまだ知られていない
切ない_彼女達の物語。
end.
♡♡