#霞

最低だっていって笑って

どうか私を許さないで


最低だった貴方を愛した

どうか私を許さないで

写真嫌いな僕と君。



あの青い空も

あの儚い雨も


全てを瞳に映したまま

残してしまったら



僕の涙は、乾きを知らないだろう。









美しさを半減させる写真を

君は、撮り続けた。


こびり付いた音が消えずにいる。





写真は嫌いだと君は言った。


写真は嫌いだと君は笑った。


写真は嫌いだと君は泣いた。





美しいと語る空を

写真に残す君を理解できなかった。





美しい空なら

美しいままに留めるべきだ。



美しさを損ねる道を選んではいけない。






けれど、君は残した。


毎日、毎日、

その度に笑いながら言うんだ。





｢欠けている｣
















写真フォルダを開くと

何百、何千と空が広がる。



青、赤、白、黒、


同じ色も

同じ空も


ひとつとない空が。





同じ場所で撮り続けた空のはずが

全て違う場所のように


空は違った。





大人という属性になり

早数年。




はじめての写真は、

どんな空だったであろうか。







過去の余韻に浸る間もなく

仕事場へと向かう。






君は、今もまだ、

空を撮っているのであろうか。





少年少女と言われた

あの頃から

君は、変わってしまっただろうか。






僕は、変わった。



美しさを半減させる写真を

撮っている。



欠けていると呟きながら。




それでもシャッター音が

止まらずにいるのは、

追い求めているからだろうか。






今日も残す。


ありのままでない空を。

偽物の空を。








はじめたばかりのSNSに

空を作る。




正方形切り取られた空と

無意味なタグを貼り付けて。


それから、

ほんの一言を添える。





欠けている、と。








スマホが不快な音を立て

他からの評価を得る。



他からの評価に興味もないのに

確認をする。






きっと、呪いか何かだと思う。


写真の呪い。


いいや、空の呪い。







美しく儚く

二度と現れぬ空を

毎日

大きく描く




ありのまま残す術もなく

写真に残してしまう




空が美し過ぎる故に

空の美しさが半減してしまう。







僕も君も呪いにかかる。











君が隣を歩いていた日から

何十年という歳月が過ぎたが、


偽物の空は

今日だってSNSに広がる。




どれだけ技術が進めど

欠けている部分は

取り繕うことが出来ない。



悲しいことだ。




美しさ故の悲しさだ。








声が枯れ始め


記憶が枯れ始め


空も枯れ始めた。





きっと、そう長くない。





それでもシャッター音は止めない。


あの場所へ足を運ぶ。



歩けなくなっても窓から残そうと

既に決めている。




晴れている。


恐ろしいくらいに雲ひとつなく。





青色だって何度も見てきた。





濃く深い青か


淡く滲んだ青か




ミルクを注いだ青か


水を足した青か




あの木の実のようか


あの花のようか




何度も見たが、

どれひとつ合わなかった。




言葉も枯れたのか、

もともと枯れていたのか、

話すことさえも億劫に。
















欠けているものが何か。




それは



真の美しさか

隠れた希望か

幼い夢か

消えない事実か



その正体がここまで生きても

突き止めることが出来なかった。





君は、許すだろうか。


いいや、許さないだろう。

きっと、怒られる。




無理難題を押し付けた癖に。





それとも忘れただろうか。


君が託した全てを。

君と交した約束を。





らしくないが

言葉を残そうと思う。



君だったり

どこかの誰かだったり

自分だったり


に向けた終わらない言葉を。

















｢写真は、嫌い｣



｢写真に欠けている何か、｣

｢その答えを知りたい｣



｢君に託すよ｣



｢私じゃ無理だった。｣

｢時間が足りなかった。｣





｢平等に平等じゃない時間が与えられ｣

｢答えを探さなけらばならない｣




｢写真は、嫌い｣


｢美しさが掠れてしまうから｣




｢でも、残してしまう｣


｢何度見上げたって美しい空が｣

｢そこには描かれているから｣



｢深く単純な呪い｣





｢欠けている何か｣

｢君の答えを見つけたら教えに来てね｣





















空から残した空の写真も

やはり、

どこか霞んでいた。






僕が用意した答え、

あまりにもあたりまえな答え。





少し高めの湿度


温く緩い風


横を過ぎてく雑音




それから、色、だと思う。






偽物の空に残しきれなかった

瞳にしか映らない色。



青いようで青くない空


だから



思い出そう。あの日の空を。






君が欠けていると呟いた

あの瞬間を切り取った

過去の記憶を。

























写真は、嫌いだ。


けれど、空から空を残そう。

好きでいてくれてありがとーね、

可惜夜月には
心の霞がひかないね＿

「会いたい」が
あまりにも儚く宙に霞む

人生で一番の心残りは

あなたにたった二文字が言えなかったこと

名前を思い出そうと花を見つけていると

蝶が肩にとまった。

時が早く進めばいいのに