#1番尊敬する打楽器奏者

世界中の人の中から
貴方に出会えて
私は本当に幸せでした

たくさん泣いたけど
それでも最後は
笑って｢さよなら｣って言えて
良かった

2年間ずっと先輩の隣にいた
いつだってキラキラ輝く先輩を
誰よりも近くで見てきた
だからこそ分かるんだ
先輩と私は才能も期待のされ方も違う
それでも私は先輩に追いつきたくて
ただ全力で打楽器に向き合ってきた
先輩と同じくらいの努力で
埋まらなかったこの壁を壊すには
努力が出来る先輩以上に
私が努力するしかない
私だって先輩みたいになりたい
打楽器に触れてる間
この世界で1番
キラキラしていた先輩みたいに
私も、私の音と共に輝きたい

どれだけ学校が嫌でも
頑張って行ったら
週5で先輩に会える
だからこの2年間
1日も休まず学校に行った
でも、もういない
水曜日、廊下で偶然会って
週5が週6になるなんて特別も
もう訪れない
きっと、今年1回くらい来てくれて
それっきり、会うこともなくなる
そんなの嫌だよ
先輩と会いたい、話したい

先輩、ごめんなさい
私がバカでした
先輩と過ごした日々は
本当に楽しかったのに
先輩は私のこと嫌いなんだろうなって
勝手に思ってました
先輩が本当に私を思ってくれていたこと
手紙を読んで初めて気づきました
この2年間、宝物みたいな
たくさんの思い出を
ありがとうございました

引退式まであと5日
久しぶりに先輩に会えた
髪を切ってたことに最初に気がついて
私が誰よりも先に声をかけたこと
先輩がホワイトデーをくれたこと
先輩と一緒に
｢正解｣や｢僕らまた｣を歌ったこと
パートみんなで合わせたこと
課題曲のスネアを
先輩が試しに叩いてみてくれたこと
先輩の隣で演奏して、
話して、笑い合えたこと
全部久しぶりで
嬉しかったし、楽しかった
ただこれが全部最後になると思うと
寂しかった

｢早く高校生になりたい｣
いつもそう言っていた先輩が
引退式のあの日
｢引退したくない｣と呟いたこと
私、嬉しかったんです
｢早く高校生になりたいんじゃ
なかったんですか？｣
私がそう聞いたら
｢そうなんだけどさ｣って
答えられなくなった先輩
あの時、私だけじゃなく先輩も
笑いながら涙目になっていたこと
ちゃんと気づいてましたよ
いつでも遊びに来てください
その時は約束通り
いつもの笑顔で歓迎しますから

引退式までずっと
先輩との日々も全部
過去に変わっていくことに
私は1人怯えてた
それでもそんな気持ちに蓋をして
引退式に近づいていく毎日を
その一瞬を
一生の思い出にできるように
先輩が好きだと言ってくれた笑顔で
いつもの私でいた
先輩との記憶は全部
過去に変わってしまった
だったら、また作ればいい
それぞれの生きる道が違っても
そのどこか途中で
先輩と笑える未来をまた新しく

先輩から受け継いだスネアドラム
打楽器の中でも特に大切なパート
苦しくなることだってたくさんある
｢なんで思い通りに
先輩みたいにできないんだろう｣
そうやってたくさん悩んできた
でも、それだけじゃない
｢ここは、ここだけは
先輩にも負けないくらい上手くできた｣
そんな自信が、また頑張る理由になって
何度も練習を重ねて
出したかった音が形になっていく
できたって喜びも増えていく
だから打楽器は辞められないんだ

2年間、いつも先輩の隣で
心から笑えていた私は
本当に幸せでした

1年半前の先輩は
2年間打楽器やってる今の私より
楽器に向き合った時間も
短かったはずなのに
私は今もまだ
あの頃の先輩に追いつけない

毎日打楽器をやれる私と違って
打楽器に触れる環境もない
それでもこの1年間
打楽器を大好きでいた後輩は
2年も基礎を重ねてきた私が
いろんな人に教えて貰って
やっと出来るようになったロールを
自分の力だけで
もうすぐ掴もうとしてる

2人で一緒に打楽器を始めて
私のことをいつも
｢凄い｣って言ってたあの子は
私がほんの数日前に教えたことを
いつの間にかできるようになって
ありえないくらいのスピードで
成長していってる

私、焦ってるんだ
どれだけ打楽器に向き合って努力しても
前みたいに早く成長できなくて
先輩に追いつけないどころか
周りに追いつかれそうで
このままじゃエースでいられなくなる
それが怖くて仕方ない
でも、
先輩の代わりに私が
このパーカッションパートで
絶対1番になるって誓ったんだ
私は、負けない

先輩から
｢優希ちゃんにいつ追いつかれるかって
ヒヤヒヤしてた｣
そう手紙にも書いてあったし
3年生からの一言の時も言ってた
そんな言葉私にはもったいない
私はこの2年間ずっと
先輩に追いつこうって思って
やってきたのに
一度だって先輩には追いつけなかった
先輩はいつだって1番で
私の憧れで
ずっと先輩に追いつけないことが
悔しくて仕方かなった
それでも
先輩がそう思ってくれたことは
嬉しかったです

｢笑顔いっぱいの優希ちゃんが
大好きだから、これからも
いっぱい笑って楽しく部活してね｣
それが先輩から貰った最後の言葉
その瞬間、私は私自身に誓ったんだ
先輩がいなくても前を向いて
これからも笑顔で
パーカッションを続けようって

引退式の日
3年生が1人ずつ前で話をしていって
先輩は多分、最後から2番目くらいだった
最初の方は他の先輩に
貰い泣きしたりしてたけど
進んでいくにつれ
それもだんだん収まってきて
このまま泣かないで
笑って終われるんじゃないかな
なんて思ったりもした
でも、やっぱり無理だった
先輩が前で、私の名前を呼んだ瞬間
勝手に涙が溢れてきて
どうしても止まらなかった
油断したら叫んでしまいそうで
声を殺してたけど
それでも溢れた私の小さな声と
震える肩が
しっかりと動画に残ってた
その時私は
泣きながらも、いつもみたいに
笑顔で話す先輩の言葉を
一つ一つ、かみしめながら
先輩と過ごした日々を思い返してた

パーカッションが5人だった時
練習が終わってパート練から
戻ってくる管楽器のみんなを待つ間
音楽室で遊んで
子供みたいにはしゃいで
笑っていたこと

2個上の先輩達がいなくなって
パーカッションが3人になった時
あの小さな窓から外を見て
どうでもいい話で笑いあって
寂しさを誤魔化していたこと

先輩と2人でパート練をした日
先輩に愚痴を聞いてもらって
先輩の愚痴を聞いて
そして最後には2人で
励ましあって笑ったこと

そんなふうに思い出した日常全部
私も先輩もパーカッションみんな
本当に楽しそうに笑ってたな、なんて
そんなことを考えてたら
｢ああそっか、明日からここには
先輩の笑顔もないんだ｣と
現実を突きつけられた

先輩の隣を歩いてこられたこと
本当に本当に嬉しかったです
いつも傍で守ってくれる
こんな優しくてかっこいい先輩がいて
私は幸せでした