蝶番・2024-02-12
recollection
原因のわからない不調に
日々翻弄されながら
それでも限られた楽しみに貪欲で
時計を先に先にと
進めるような道だったけど
振り返れば
胸が痛むほどまっすぐ歩いていた
正義感だけではきっと無かったはず
愛を盾に奮い立たせるなんて
まだ明日の行方が見えない時代だった
それだけじゃない
希望を隠しぎゅっと温めていた
あなたを抱きしめたい
その眩しさに今、触れたい
そこ、ここに
大切な人がいる
今はもういないけど、いる
そんな物語
昔は理解できなかった
反発を覚え
問い詰めた時期もあった
なんて愚かな真四角
微笑むくらい容易かったのに
今は目をつぶってても感じられる
そこ、ここいる
あたたかな揺らぎ
夜明け前
毎日のように目が覚めて
薄明かりに文字を並べていた
あの頃と同じ白い朝の手前
だけど同じじゃない
同じくらい切実だけど
1500日が過ぎたということ
まっすぐに
無いかもしれないものを
求め走っていた
そうじゃないと
足を止めてしまえば
すべてが終わってしまうと思っていた
誰にも語らず紙に書き付けた熱情
あんなに怖いことを
良くできてたと思う
見たこともない宝石を
その原石と信じるものへ
遮二無二手を伸ばして
ひとりだから、できた
叱咤し抱き締める
わたしとわたしで見ていた光の尾
そのハレーションは
ほんとに本物だったかな
共犯の鏡像を女神に祭り上げる
それもしたたかで舌を巻く生命力だけど
恵まれた物語だったと思う
願いが直線に叶ったわけじゃない
わらしべ長者みたいに
交差した縁が先々で手を取り
細く道を拓いていった
思い描いた小さな夢は
ひとつまたひとつとあきらめたけど
とりあえず歩いた
何もしないでいるなんてできなかった
だからきっと
何もかも放棄するのじゃない限りは
どこかにたどり着くよ
そしてそれは悪くもない眺め
夏休みになると本が読みたくなる
ふらり寄った書店で
出版社が出す夏のおすすめ本の小冊子を
何種類も持ち帰り家でゆっくり目を通す
読みたいものに印をつけ図書館へ行く
読書感想文は得意ではなかったけど
小学生のときに購入した一冊の課題図書が
永久保存用の本棚に色あせた背表紙を並べている
今でも時々読み返したくなる
そんな出会いもある
ほんとに欲しかったのは
ともだちだった
のかもしれない
愛とか恋とかよくわからないけど
わたしが一番
その子の良さもダメなところもわかっていて
わたしのすべてで守りたかった
わたしはこの写真にいつも
溢れ出す悲しみを見る
ぎりぎり形をとどめている
過剰で繊細で
ひとり立つ人
その目に映る色を感じたくて
すぐ後ろで見守っていたくて、、
とうに封した夢
さらす花嵐
必要なくなったらいつでも言って
すぐいなくなるから
恋人によく繰り返していた
不思議そうな戸惑いがちな
笑みを向けられる度
溺れずにちゃんと立ってる
そんな気分でいたけど
ただ自信がなくて
自分の気持ちすらゆだねていた
だけだったのかもしれない
子どものころ
気温が高くなる午後には家族でお昼寝をした
家中、涼を求め辿りついた
玄関から廊下に続く小さなスペース
夜は寝つくまで母がうちわで扇いでくれた
居間にも寝室にも
エアコンが無かったってことだよね
最早おとぎ話のような夏の記憶
生まれて
生きてく意味って何だろう
たっぷりの時間で
ひとり
言葉と遊ぶうち
街は揺らめいて
海を深く潜るように
青に漂う
そんな夜もあった
楽しくなきゃやるわけないよ
きみの声にはっとする
「楽しい」が当たり前に一番の人は
そうじゃない嗜好性を持った人間を
理解できないのは仕方ないのかもしれない
それくらい楽しいは正しく強い
健全なる鈍感
そんな視線と評価は笑みで切って
好きなものを大事にしよう
好きなものを好きな自分を確かに守ろう
自我と協調
希望と絶望
諦めから始まった伏し目がちな一歩
思いつめなくたって
あたたかい日々はそこかしこにある
ぬるいんじゃなくてぬくい
思い出すそれぞれの手は
それぞれの重さで
それぞれのタイミングで
わたしに差し出され
支えていた きっと
選ばなかった方の道を
想うことがある
こんなふうに夢に見るほど
選ばなかった、、
つまりあなたを選ばなかった方の道
あるいは
どちらの手も離さなかった道
想像して
これで良かったと納得できないから
何度も架空の生き直しを繰り返す
わたしに必要なのは
シミュレーションでも
肚落ちでもなく
あっさりと手放したそれを
今、この状況から手に入れる方法だ
束の間の光を浴び
窓を一つずつ開けていく
家中に風を通す
自分をコントロールできている
ささやかな積み重ねが
心を平らかにする
決してまじわらないと思っていた世界に
今、触れている