#涙をそっと

涙を拭おうとしないで

流れ落ちるまで待って

自然に冗談で笑わせて

風にふるえる千草のように

控えめで繊細な君を想う時

心のざわめきが止まらなくなる

見る度角張っていくその背中が

これから闇に包まれていくようで

君が去る時の小さくなっていく背中を

いつか見なくなる日が来てしまうのかな

あなたの背中を追いかけて

ここまで来たんだ

でも

あなたになることはできない

次は私が

背中を見せる番なのに

涙がもらい泣きと伝い
引っ越し先でも微笑んでいてね

どんなに衝撃的なことがあっても

涙を流すのは素直な感情だよ

でも命だけは本当に大事にしてほしい

幼い頃の君は知らない

でも、
今の素敵な君を知ってる

人知れず涙を流す君は
優しい品のある女性

そんな君を
静かに抱きしめた

君の哀しみは全て
俺が引き受けるから…

涙がそっと
二人を濡らしていた

紫陽花は

降りしきる　雨の中で　　より　鮮やかになる

絶え間なく　滴を受けて　　彩りを　深める


ならば　　わたしも

あなたの　瞳の　涙の中で　　艶めきたい

あなたの　心の　虹の輝きで　　美しくなりたい


そして

あなたの　傷ついた　背中の陰りを　　癒したい

零れた水滴を密かに拭い

手の甲には煌めく光

隠蔽しないといけないと

その気持ちが闇に溢れてる

手を離したのは私の方なのに

まだ君の特別でいるような気がして

そんな馬鹿なことを今でも信じていて

口付けひとつで癒される傷なら

仄かな花の香りでさえ鬱陶しいと

そう思うことはなかったのでしょうね

病室で　　寝たきりの　父は
母と　わたしの　顔を　見て

その　目尻から　　静かに　涙を　流した

あふれる　滴は　　嬉しいのか　　悔しいのか

そんな　父の想いを　　受け留めるように
わたしは　そっと　　ティッシュで　滴　拭った

焦点の　ぼんやりした　眼差し
何かを　伝えたそうな　口もと

時間になって　面会を終え　　帰る間際　わたしは

枕元の　　父の涙を　含んだ　ティッシュを
捨てられなくて　　バッグに　しまった

枕を濡らした嗚咽が

月明かりの気まぐれなんかで

いつか花びらを色付けますように

辛いことがあっても

無理して笑う貴方の隣で

涙をそっと拭いたい