-短編小説-
『猫と学ラン』
「体験入部でやってきました!! 一年の山田サトシ!! 好きな動物は猫!! 嫌いな人は、嘘をつく人!! 特技は、人の嘘を見破ることです!! 足の速さなら誰にも負けないと自負してます!! ぜひお役に立ちたいです!!」
その笑顔が眩しい少年・山田は、学ランのボタンを上までぴっちりと閉めていた。背筋をこれでもかと伸ばして、真面目だと伺える。
「うんー、元気でよろしい。でもね、ここは美術部なんだよね」
「はいっ」
目に少しかかるほどの前髪を揺らし、笑顔のまま、部長らしき丸刈りの生徒に顔を向ける。
「美術部は、走ることがないんだよねー」
「はいっ!!」
山田は元気に叫ぶと、楽しそうに飛び跳ねる。
「元気でよろしい。あと、嘘つく人が嫌いで嘘を見破れるっていうところは一旦無視するね」
「すごい丸刈りですね! 野球部ですか?」
山田は前屈みになって、興味深そうにその丸い頭を見つめる。
「美術部だよー」
「あっ、失礼しました!! 小野寺さん!!」
「部長の植上シゲトです。まだ名乗ってなかったねごめんねー」
植上は冷静にぺこりと山田に会釈した。
「はい!! 僕は山田」
「サトシくんだよね」
「はい!! 急に下の名前で呼ばれるのは嫌いです!!」
山田はまた真っ直ぐ背筋を伸ばし、指先を体の真横に揃えて気をつけの格好をする。
「それはごめんねー」
「シゲトさんは」
「呼ぶのは嫌いじゃないんだね。うん、まあ続けて?」
「校舎裏で猫を●したことあります!?」
その明るい表情からは想像もできないようなことを言われた植上は、思わず黙ってしまう。周りの美術部員も少しザワザワし始めた。
植上は、やはりこいつはおかしいと思った。この高校の制服はブレザーのはずなのに、学ランを着ている。この部室にやってきた時から内心少し怖かった。
「……えっとー、ないね」
「なるほど、そういう人なんですね! また一つシゲトさんのこと知れて嬉しいです。じゃあ解剖して内臓をスケッチしたことは!?」
「ちょっと待って! 君は、それをやったことあるの?」
「はい!!」
「……そうかー、かける言葉が見つからないな」
「で、ありますか? やったこと。天才部長さんのことだからありそうですね!」
「うーんとね」
植上は、ここで同類のふりをしなければと考えた。でなければ何か恐ろしいことをされるような気がして。
「あるー……よ」
「山田サトシ!! 僕の嫌いな人は、嘘をつく人です! 特技は、人の嘘を見破ることです!!」
「あ……」
「シゲトさんのことは尊敬してるし、下の名前で呼ばれても嘘ついてもシゲトさんのことは嫌いにならないですよ。むしろ人間味のある駄目なところが見れて嬉しいし、好きです!! あれ、逃げようとしてますか?」
「いや、あの」
「足の速さなら誰にも負けないと自負してます!!」
植上は廊下まで全力疾走する。山田はそれに一秒ですぐ追いつきそうな勢いで、笑顔のまま走っていった。
(終わり)
-あとがき-
ラブレターズのコント「机上旅行部」に影響されてる奴ですどうも。コントに影響されてるから、こんなに地の文少ないのかもしれない。でも本家にはなかったはずの会話だと思います。初恋のネタも混ざってる。
学ランが好きです。
この小説は今日、溜めてた限定写真の中にこの可愛い背景写真があったので、何となく『猫と学ラン』と書いてみたら、美術部部長植上と変な新入生山田の会話のセリフが自然と浮かんできて、1時間くらいで完成したものです。
最初らへんの会話の雰囲気は完全にコントに影響されてる(内容自体は全てオリジナルです)。だけどオチが物騒だね。最初のセリフが最後に戻ってくるっていう。まあ下手な伏線だけども。
(終わり)ってのがダブルミーニングになってるのかな。今気づいたわ作者なのに。
投稿する時に、後半のセリフが禁止ワードに引っかかってこの投稿が見えんようになるのが1番怖い。
慧兎さんと萃蘭さんより、タグを2つお借りしました。
そういえば私は黒猫を飼っているのですが、最近寒いからかよく寝るようになりました。冬眠的なそれでしょうか。可愛いです。だけどこんな話を書いてしまいました。なんかごめんなさい、うちの猫。
もし良ければの話ですが、この小説の感想をいただけたら嬉しいです。ここまで読んでくださりありがとうございました。