#離任した元顧問

定期テストの音楽
1年生の時は毎回
“正しいものには 〇
間違っているものには‪ ×をつけなさい”
っていう問題があって
いつも正解は全部‪ ×だった
三学期くらいになると
みんなそれに気がついて
｢意味ないじゃん｣って言ってたけど
そんな問題も先生らしくて
なんだかんだで好きだった

少しずつ
先生との思い出も
先生と交わした言葉も
先生の笑顔も
忘れていってる自分が怖い
もう先生との約束は何も残ってない
全部叶ったり叶わなかったりで
消えていった
先生、今どこでどうしてますか

｢サヨナラは悲しい言葉じゃない
それぞれの夢へと僕らを繋ぐエール｣
そんな歌詞で私たち吹奏楽部は
先生に別れを告げた
でも私はやっぱり
先生といたかった
先生がいれば今だって
きっとこんなに苦しくなかったのに

次も当たり前に
先生の指揮で
コンクールに出るんだと思ってた
異動する先生達の一覧を握りしめて
泣き崩れたあの日は
夜も眠れなかった
翌日もずっと先生のそばで泣いていた
離任式の時
｢誰よりも1番長い時間を
一緒に過ごしてきた吹奏楽部の皆さん
またホールで会いましょう！｣
先生は確かにそう言った
コンクールのあの時
本当に先生が来てくれて
ちゃんと覚えててくれたんだって
嬉しかった
私はずっと
あのホールでもう一度
先生と会えることを願ってる
今もこれからも

次のアンコンは
経験者の私がみんなを引っ張って行く
そう、先生と最後に約束した
先生との約束の中で
これだけがまだ残ってた
だから先生が
もしアンコンを見に来てくれたら
その時はちゃんと
｢約束を叶えた｣って言えるように
どんな結果になっても
｢これが私たちの精一杯｣って
胸を張れるように

夢の中に先生がいた
いつもの合奏体形
指揮台に立っているのは
いなくなったはずの大好きな先生
私がもう一度見たいと
思っていた大好きな景色が
そこにはあった
この夢が一生覚めなくてもいい
そう思うくらいに
幸せな空間だった

あの日先生と交わしたたくさんの約束
残された最後の1つは絶対に守りたい

先生は異動が決まってすぐ
私にドラムをしなさいって言った
私が何度拒んでも
先生はそればかりを言い続けた
まだまだ経験も浅くて下手だった私に
どうして先生がそこまで言うのか
あの頃は理解できなかった
でも今ならわかる
ドラムが少しでも崩れると全部が崩れる
だからドラムは
人一番の責任感が必要だって
先生は知ってたから
どれだけ周りから評価されなくても
私が1人で責任を負い続けていたことを
先輩達みたいになりたくて
私が打楽器に向き合っていたことを
先生は分かっててくれたから
だから私に託してくれた
この学校から先生がいなくなって
半年以上
その思いにやっと気がついた
先生、私ドラムたくさん練習したんです
先生はまだ夢の中でしか
私のドラムを聴いてくれない
いつか聴いて欲しい
先生に最高の音を届けたくて
打楽器に向き合ってきた私の音を

先生と先輩がいたあの頃に戻れるなら
もう一度笑えるのに

夢は願望の表れって聞いたことがある
良かった安心した
いつも、先生があの指揮台に
あの頃みたいに立っている夢を見る
ちゃんと覚えてる、忘れてない
今の顧問も大丈夫になったけど
私を救ってくれた先生が私の特別

人が人を忘れる順番は
声、顔、思い出の順なんだって
怖い忘れたくない
分かったふりなんかしないで
ちゃんと私を見てくれた
そんなたった1人の先生を
私は忘れたくない
絶対に忘れない
そう思ってたのに
もう声が思い出せない
ねえ、なんで？
私は先生のことを忘れた日なんて
1日もないのに
どうして先生の声が分からないの
嫌だ忘れたくない
先生が私を忘れていても
私は先生を忘れたくない
先生の笑顔も
先生の言葉も
きっともう私の記憶に
新しく増えることはないから
何一つ失いたくない

私の音を先生に届けたい
そんな気持ちで私は今日も
この音楽の世界を生きています

あれから5センチも伸びた身長は
きっともう先生を追い越してる

先生は今の学校でどうしてるかな
私達の学校では
あんまり生徒から好かれなくて
先生のことを大好きだって言うのは
周りでは私くらいだった
みんな本当の先生を知らないんだ
厳しくて、ほとんど笑わなくて
とにかく深く関わらなければ
何を考えてるのかも全然分からなくて
でも、本当は優しくて
誰よりも生徒思いで
周りからの偏見にも
イメージにも流されず
自分の目で生徒1人1人を見ていて
そんな先生だったから
なんとなく出来上がったイメージに
苦しめられてた私は
とにかく救われた
ずっとここにいて欲しかった
新しい学校で
バスケ部の副顧問をするくらいなら
ここで指揮を振っていて欲しかった
今でもそう思ってる
でも、先生が
また新しい場所で私みたいな誰かを
そっと救ってくれてるなら、仕方ない
私はもう救ってもらった
夢を貰ったんだから
先生が信じてくれた私を信じて
1人でも進んでいく
憧れられるなんて
先生はきっと望んでもいないだろうけど
今度は私が先生みたいに
少しでも多くの誰かを
救えるような人になる