はじめる

#音楽家

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全10作品・

小説

彼が彼でなくなる前に、

私は彼を殺めなければならなかった。

























音楽。


それは、私にとって唯一の救いだった。



両親に捨てられ、

兄が自殺し、


そんな環境の中で、


音楽は光を与えてくれた。





ジャンルは問わない。

アーティストも誰でもいい。



綺麗事しか歌われない音楽が、

汚い世界の声を掻き消してくれた。



















そして、私は彼に出会った。






たまたま、イヤホンから流れた音楽は、


大きく私の心を動かした。




なんて素敵な音楽だろう。

これが、これこそが音楽だと思った。



歌詞、リズム、歌声。


全てが完璧だった。




_染野悠真。






天才、と呼ぶには、

少々オリジナリティに欠けるほど、


当時、既に彼は有名だった。








それから三ヶ月。


奇跡は唐突に訪れる。



その頃、私は彼に憧れて、

自分でも作曲活動に取り組んでいた。




ネットにアップし、

評価ももらっている。



そのコメント欄に、



彼からのコメントが届いていた。




君の音楽は素敵だ。

話してみたい。





本人だと、何故か確証した。


雰囲気だろうか。


言葉の使い方だろうか。




待ち合わせは、


そこそこ有名な公園。





三日後に、


私は彼に出会った。


「初めまして」


私は、かすれた声で言う。

素直に緊張していた。



嗚呼、憧れの人が目の前にいる。

私は浮かれていた。



「初めまして。染野悠真です」


知ってます。貴方の大ファンです。


そんなことは言えず、


私も名乗った。





後から気づいたが、


彼が私の名前を呼んでくれることは、

生涯一度もなかった。





しばらくその公園で、


自分等の音楽を語り合った。



幸せと呼ぶには足りないくらいの、


それはそれは素晴らしい時間だった。




汚い世界が、

彼のとなりにいるときだけ、


宝石のように輝きを放っていた。






一ヶ月も経つと、


彼の家に入ることも少なくなかった。


いや、待ち合わせはほとんど彼の家へとなった。




私たちの間には、

六つの年の差があった。



でも彼は、それを感じさせないくらい、


親切に話してくれた。




次第に、憧れは淡い恋心へと変化していった。




















奇跡は唐突に訪れた。
















ならば、








地獄へ落ちるのも一瞬なのだ。
















染野悠真は、


音楽の世界から消えた。



















音楽番組のオファーは全て断り、


ギターも、マイクも。


イヤホンすら見せることがなくなった。









スランプ。









彼にとって初めての挫折。




彼はだんだんと壊れ始めた。






天才だと謳われた。


神の声だと叫ばれた。






それが、彼にとってどれ程のプレッシャーだったのだろうか。



かける言葉が思い付かなかった。



「染野さん、大丈夫です。


 必ずまた歌えます。


 諦めなければ、必ず歌えます」







そんな言葉は、もう、彼の耳には届かなかった。






少しして、彼はやっと一曲作り上げた。



一番に、私は聴いた。











最悪だった。






染野悠真は、そこにはいなかった。






天才だと謳われた染野悠真は、



何者でもなくなった。






「これを、世に出すわけにはいかないよな」




彼は絶望的な声で言った。





私は何も言えなかった。





無言の肯定だった。








私の憧れた染野悠真はもういない。



では、私の好きな染野悠真は?











その答えは、私には出なかった。







彼は苦しみの中でも、


曲を作っていた。





私は、


それを聴けば聴くほど、



絶望間に晒された。



吐き気がする程だった。









彼はついに、私に言った。




「僕は、もう僕じゃないよ」


私は黙った。


「君の憧れた音楽家は、もういない」


出ていけ。


そういわれた気がした。





彼は音楽をやめるつもりなのだ。




「どうして!まだかけます!


 貴方なら、まだ作れます!」



「無理だよ」



「駄目なんです」



「何がだよ」



「貴方が染野悠真でないと、

 私は生きていけないんです」



涙が出た。


わがままな言葉だ。



「でも、このまま続けたって、


 僕は染野悠真には戻れない」


「まだ、まだ…」


「じゃあ、僕を終わらせれば?」


今、ここで。


何を言ってるのか、理解できなかった。




「まだ今なら、僕は染野悠真だ。

 ほら、僕が染野悠真であるうちに、


 僕が僕であるうちに」



何を言っているの?


貴方は、私に愛する人を殺めろと言っているの?



「早く」


彼は、ポケットからカッターナイフを取り出した。



そんなものをもっていたのか。




「僕を今終わらせば、


 そして、君も終われば、


 君はずっと染野悠真と一緒だ」



心中。



そうか。



そうすればいいのか。




彼を殺めて、


私も死ぬ。






私の心は、壊れかけていた。



いや、もう壊れていた。






私はカッターナイフを受け取る。





彼が彼でなくなる前に、


私は彼を殺めなければなかった。





彼を愛した人々のために。


私のために。


彼のために。

















気がつけば、彼の白いシャツは赤く染まっていた。



「愛、してるよ」


最期に、彼は言った。




そんな言葉を言うなら、


私の名前を呼んでよ。




私に一瞬、痛みがはしる。



さよなら。




「私も愛してます」






















それから一週間後、


染野悠真と、

独りの少女の冷たくなったからだが、



警察によって発見された_。




END

灯・2020-08-13
小説
音楽家
真夜中図書館。
独り言
ポエム
壊れた愛
なくした才能
好きな人
もしも私が魔法使いなら

君が奏でる音色は

君の悲鳴のようで

あちょ・2025-03-18
悲鳴の音色
音楽家
作曲家
音楽
楽曲
楽器
音色
作曲家と呼ばれる方たちの中にもきっと
泣きたい程の想いを抱えて楽曲制作された方もいるのだろうな
君の隣
ポエム
響く音色の形

夢を見るから
人生は輝く

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

茶々様( ゚д゚) すとぷり192時間リレー生放送・2019-03-23
名言
音楽家

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