秘密さん・2020-06-25
独り言
僕のヒーロー
君は僕のヒーローなんだ
傘を持っていない僕は、
ひとり雨に殴られている。
傘を持っている人達は、
惨めな僕を横目で流してる。
太陽は、どこに行ってしまったんだろう。
君は僕のヒーロー
辛い時1番に気付いてくれて慰めてくれて
なのに僕は君を助けれない
無力な僕をどうか許してください___
ほころ
学生
無性
僕系/パーカーの/色白/スマホ
嫉妬とかないタイプかな
《僕のヒーロー》
『さーちゃん、またね』
そう言って僕のヒーローは姿を消した__
『堂々として、前見て歩きな』
それが彼女の口癖だった。
__見てるか?夏希。
お前に会って、お前と過ごして、
僕は変われたんだ。
感謝してるよ、ありがとう。
こんなこと言ったら、
あいつは照れたように笑うんだろうな。
『私がいなくても、さーちゃんなら大丈夫だよ』
お前が言った通りだったな。
僕さ、今の生活がめっちゃ楽しいよ。
前まで下向いてたのが嘘みたいだ。
あの時は、
いつ屋上から飛び降りようか…
なんてこと考えてたっけな。
今はそんなこと全然考えてねぇよ、安心してな。
でも、心に穴が開いたように
僕の心が埋まることは
これから先、絶対ないだろう。
だって僕は、夏希のことが…
なんて、今更だな。
僕も、もうすぐ行くから、
待ってろよ。
今度こそ、想いを伝えるから__
《僕のヒーロー》⑦
時間は止まらない__。
なら、僕はどうしたら正解なんだろうか__。
僕は泣いた。
もう、これ以上は涙が出ないんじゃないかと思うぐらい、
ずっと泣いた。
それほどまでに、
夏希は
僕の中で
大きな存在になっていたんだ。
僕は、
沢山の人に励まされた。
そして、
気付いた。
僕はこのままじゃ駄目だ__
夏希の分まで生きなくちゃ__
それから僕は、
人が変わったかのように、
明るくなった。
ハキハキ話すようになった。
下を向かなくなった。
誰かに言われた。
❲夏希ちゃんを見てるようだわ❳
良かった。
僕は弱いところを見せるのを辞めた。
だって、
夏希もそうだったから。
すると自然に
僕の周りに
人が集まった。
夏希がいなくなった穴を
埋めるように…
でも、
僕の心はひとりぼっち。
夏希がいなくなった、
あの日から、
僕はひとりぼっちなんだ__
《僕のヒーロー》⑥
どうして僕はいつも
大切なものばかり失うんだ__。
夏希からの手紙には、
最後に何回も書いて、
何回も消された一文があった。
『もっと生きていたかった』
僕はやっと気付いた。
自分の愚かさに。
僕は自分しか見えてなかったんだ。
他のものなんて見ようとしなかったんだ。
夏希は強くなんてない。
弱さを隠すために、
強い自分を演じていたんだ。
僕が夏希より弱かったから__
僕がもっと強かったら__
夏希は、
最後まで僕に弱いところを見せなかった。
僕は夏希にどれだけ負担をかけていただろうか__
そんな思いばかりが浮かんでは、
消えていった…
それから僕は、
ずっと泣いていた。
時間は止まってはくれない。
僕の体も、
病魔に蝕まれていく。
それは、
誰にも止められないんだ__
君が笑ってるだけで
周りが明るくなる。
君は
笑顔のスーパーマンだ!
『雪が溶けたら何になるかな』
「水」とも「春」とも
言わない君は、「泥」と答える
そんな寂しい人だけど
『雨上がりの後は何が出るかな』
「虹」とも「お日様」とも
言わない君は、
「また次の雨」と答える
そんな切ない人だけど
『今日の次は何があるかな』
「暗日」とも「朝」とも
言わない君は、
「僕がいるよ」と答えた
そんな優しい人だった
《僕のヒーロー》③
僕たちは忘れていたんだ。
時間には限りがあって、
それが普通の人より短いことを__
それは、
夏希と5回目の外出をした次の日に
突然起こった__
僕はすぐに分かった。
夏希はもう長くない。
それから、
夏希は個室に移された。
僕は毎日会いに行った。
夏希は辛そうな素振りなんてしなかった。
いつも笑顔で僕を迎え入れてくれた。
泣いていたのはいつも、
僕の方で__。
僕が表情を崩す度に
夏希は言った。
『前見て、笑って?』
それは、
とても馴染み深い言葉だった。
二人で外出して遊んでいるとき、
僕はすぐ下を向く。
自信がなかった。
その度に夏希は言ってくれた。
『堂々として前見て歩きな』
僕は、
強い夏希が憧れだった。
夏希が強いなんて、
僕の勝手な思い込みだったんだ。
気付けなくてごめん、夏希__。
《僕のヒーロー》④
君の強さに憧れて、
君の弱さに気づけなかった__。
夏希が個室に移されてから
10日がたった頃、
僕はいつもどうり、
夏希に会いに行った。
でも、
部屋の前にかけられた
【面会謝絶】
という1枚のプレートに阻まれ、
僕と夏希の時間が止まった__
その後、
僕は病状が悪化し、
検査や治療で個室に移された。
検査薬や抗がん剤の影響により
僕は意識を手放した。
僕が起きたのは3日後__。
僕は自分のことより
夏希の方が心配だった。
車椅子を押して
夏希がいた個室を訪ねた。
そこには、
夏希が使っていたベッド、
夏希が好きなCDたち、
夏希が好きなモデルのポスター、
夏希が好きなものが沢山置いてあった。
でも、
どこを探しても、
夏希は居なかった__。
ああ、人生とは、
神様とは、
運命とは、
なぜ、こんなにも残酷なのだろうか__。
《僕のヒーロー》②
僕は今年、死ぬ。
それは絶対変わらない。
なんで、僕なんだ__
『ねぇ、君、名前何て言うの?』
そんな暗い空気を追い払う勢いで
その女はやって来た。
この病室に来たってことは、
この子も長くないのか…
なんてことを考えながら、
僕はその女と親しくなった。
今更、人と馴れ合っても、
辛くなるだけなのに…
その女は、
僕が作った壁を軽々と越えてきた。
『私は、夏希っていうの!』
『華のJKよw』
なんでこいつはこんなに明るいんだ__
僕は、なんだかんだ言って、
年の近い夏希と仲良くなった。
夏希に、外出日を合わせろと脅され、
一緒に出掛けたりもした。
外出なんて、
いつぶりだっただろうか。
二人でギリギリの時間まで遊んでいた。
この先も、
この日常が続くのだと思っていた。
僕は忘れていたんだ。
僕たちの時間には
限りがあることを____
《僕のヒーロー》⑤
なんて残酷な世界なのだろうか__。
いったい、
僕たちが何をしたというのだろう__。
夏希が居ない病室には
まだ、
夏希の面影があった。
その日、
僕は看護師さんから手紙を渡された。
差出人なんて
書かれてなかった。
でも、
すぐに分かった。
だってさ、
文のはじめが、
あいつの口癖だったから__。
『堂々として、前見て歩きな』
『さーちゃんなら、もう大丈夫だよ』
『なんてったって、私が認めた人だもの』
『さーちゃんと過ごした時間は忘れない』
『めちゃんこ楽しかった!』
『欲を言えば、もっと一緒に居たかった』
『私の分まで生きて、さーちゃん』
僕は堪えきれなかった。
そこには、
震えて、
弱々しい文字が…
嘘だ…
だって、
あんなに笑ってたじゃないか。
話してたじゃないか。
強かったじゃないか__
なんで僕は、
いつも大事なときに__。
ごめん、
ごめんな、夏希…
《僕のヒーロー》⑧
夏希なしで
僕の心が埋まるはずがない__
それから僕は、
病状が安定して、
大部屋に移された。
そこでも、
夏希が僕にしてくれたように、
みんなに明るく接した。
僕の周りは
笑顔で溢れた。
ちょっと前までは、
あんなに暗い空気に囲まれていたのに…
やっぱり、
僕を変えてくれたのは、
僕を救ってくれたのは、
夏希なんだよ__。
それから僕は、
夏希の好きなものを集めたり、
夏希の好きなことを、
【一人で】した。
最初はとても孤独だった。
でも、
次第に、
夏希がいるように感じて、
止められなかった。
僕は
いろいろなところで
夏希の面影を探すようになった。
いないと分かっているのに__
《僕のヒーロー》⑪完
やっと、
夏希に会える__
目が覚めると、
僕は花畑にいた。
嗚呼、
僕は本当に死んだんだな__。
【夏希は?】
僕は夏希を探した。
そこはとても広く、
探すのに手間取った。
その間に、
何人かのひとに会った。
その人たちが
❲ここに来た人たちは、記憶を無くすんだ…❳
❲次に生まれる準備のためよ❳
僕はやっと夏希を見つけた。
【夏希!やっと会えた…】
僕は自然と涙が出た。
それなのに、
『あなた、だーれ?』
無邪気な、
懐かしい夏希の声が、
信じられない言葉を発した。
嗚呼、
あの人たちの言ったことは、
本当だったのか__。
僕は信じられなかった。
心をえぐられるようだった。
だけど、
これだけは伝えなくちゃ…
【夏希、好きだよ】
夏希が目を見開き、
その目から、
大粒の涙が流れてきた。
『さーちゃん…』
【夏希、僕が分かるの?】
『うん…』
『探してくれて、ありがとう』
『忘れないでくれて、ありがとう』
【僕の方こそ、忘れないでくれて、ありがとう】
僕は泣いていた。
強くなるって決めたのに__。
『さーちゃん、変わってないね』
『でも、そんなさーちゃんが大好き…』
僕は驚いて夏希を見た。
そこには、
恥ずかしそうに微笑む彼女がいた。
【もう、離れたりしないから__】