#執念

＿＿＿私には、何もない


渇いている、唯、ひたすらに





あの人を亡くしてから、私は私で無くなった気がする
生きていた頃は見なかった新聞紙や雑誌、本を読み漁り
自分よりも秀でた人間を参考にして美しい所作や話術を覚えた


地道に貯蓄したお金を使って質の良いドレスを買い
自分の素顔が映えるように化粧を施して
とある高級なバーに赴いたのは、もう半年以上も前の話だ


独学の化粧知識ではあったけれど
自分自身を一番美しく見せる化粧の仕方は熟知している
濃過ぎず、薄過ぎず、飽くまでも元の顔を映えさせるように


美しさは女の武器だ
頭も弱く特別な特技もない、非力で無力な私にとって
産まれ持った"顔"は使わない手はない
男を手中に納める為の技巧も身体も、使える内は存分に使う
其の為の苦労は惜しまない


初めはバーで自分の顔を売ることから始めた
来店すると必ず客が通るカウンターの中央席に腰を下ろし
一人で静かに酒を飲んで時を過ごすだけ


たったこれだけの事でも、案外人は興味を抱いていくものだ
初めは女の一人客と言うものを物珍しく一瞥し
その内定期的に見る若い女の客に興味本意で近付いて行く



…物事の見極めは何時だって難しい
焦って妥協をすれば其の程度の物しか手に入らないし
決して其れ以上は望めない
地道に時間を掛けて信頼を得るなり
目上の人間に見初められるよう機会を伺う必要がある


私が望むのは事件の確信に迫る事の出来る大きな人物だ
大した情報や影響力のない下っ端なんかじゃない




…結果的に言えば私の作戦は成功した
一人と知り合うと少しずつ関係は広がって
今ではそこそこの権力を持つ男と知り合いになれた
大きな権力を持つ者に出会うには、そこへ行く為の切符がいる
特別危険で、とても甘美なパスポートが



＿＿＿＿ねぇ、＿＿さん


私、貴方に近付く為なら何でもやる

喩え其がどんなに危険な事だとしても




貴方の為だなんて大層なことは言わない
此は貴方に別れも言えなかった私のエゴ
何も知らずにのうのうと貴方を待った愚かで純粋な私への別れ



御免ね、＿＿さん

私は、貴方のようにはなれない




『　　　　　　』




何れ程愚かと言われても

己の渇きは己自身で満たすより他にない


幾ら他人にその役目を与えたところで

己の渇きが癒えることは決してないのだ




女はそうして破滅へと歩み寄り、一人の男へぶつかった

緩く癖のある黒髪の初老の男を見て、女は確信する




此の男こそ、自分が求めた禁断の果実だと

執念ってどうやったら生まれるのだろう

偶然君に会った。

もっと可愛い格好しとけば良かった。


3年も好きだった私。
君と離れて1年。
別に気になる人ができたはずなのに。

まだどこかで『好き』なのかな。

こわっ…依存が過ぎて

もはやストーカーと化している